テクノロジー

2016.11.13 15:00

アマゾン・マイクロソフト・グーグルの三つ巴 「クラウド市場の覇者」は誰か?


劣勢に立たされるグーグル

グーグルは20年以上もかけて世界最大級のコンピュータ・ネットワークを作り上げた。クラウドという新時代の利益を享受できる絶好のポジションにいるように見えるが、グリーンは厄介な課題に直面している。グズグズしている間に、ジェフ・ベゾス率いるアマゾンがクラウド業界を食い尽くしてしまったのだ。

ベゾスは2006年、「AWS(アマゾン ウェブ サービス)」という信じられない賭けに出た。主力のオンライン小売事業とは大きくかけ離れたクラウド事業への参入を発表し、多くの人々を困惑させた。だが結果は大成功で、AWSの成長はアマゾンにとっても驚きだった。

100万人を超えるユーザーを持つAWSの今年の売上高は、100億ドル(約1兆円)になる見込みだ。AWS単体の営業利益(第1四半期は6億ドル)でアマゾン全体の黒字を支えていることになる。

当初3つのサービスからスタートしたAWSは、現在70を超えるサービスや機能を提供するまでに拡大した。AWSを利用する顧客のサービスがインターネット全体に及ぼす影響も大きい。たとえば、「Netflix(ネットフリックス)」のユーザーがお気に入りの番組をゆったり鑑賞する日曜の夜、全米のネット通信量の約30%がAWSを経由する。ネットフリックスがAWS上で動いているためだ。

「AWSを利用すれば、ITビジネスを立ち上げるのはレゴを組み立てるように簡単」というのがアマゾンの売り文句である。

今のところアマゾンの独り勝ちとはいえ、クラウド競争はまだ始まったばかりだ。クラウドの市場規模は現在の10倍の3,700億ドル、うまくいけば最大1兆ドル程度にまで拡大すると予想されている。クラウド市場が、グローバルなスマートフォン市場に匹敵する巨大市場であることは間違いない。

マイクロソフトのCEOに就任したサティア・ナデラは、クラウド・コンピューティング部門の責任者を務めた人物。彼のリーダーシップの下で生まれ変わったマイクロソフトは、クラウド事業に積極的に投資を進め、クラウドサービス「Azure(アジュール)」でアマゾンに次ぐナンバー2の座を揺るぎないものにした。IBMは依然として市場シェアでグーグルを上回る。ほかの企業もさらなるシェア獲得を目指して、クラウド事業への投資を強化している。こうして今後数年に及ぶクラウドの覇権争いの舞台は整った。

グリーンはグーグルが劣勢に立たされているのは百も承知だが、「グーグルには勝つために必要なものがすべて揃っている」と強調する。

「何事にもへこたれない根性、豊富な資金、優れたテクノロジー。それに、私はいつもチャレンジすることを楽しんできました」

ベゾスが掲げるAWSの最終ゴールは、シンプルかつ驚くべきものだ。それは、小売り事業を上回る収益をあげること。アマゾンの経営陣がAWSの計画をひそかに練っていた10年以上前には、誰ひとりとして─ベゾスですら─そんなことが可能だとは思いもしなかっただろう。

アマゾンに追いつけるか

AWSは絶妙なタイミングで登場した。世間ではソーシャルメディアが隆盛し、モバイルスタートアップが次々と生まれていた。サーバーやデータストレージの運用・管理の煩わしさから解放してくれるAWSは、費用と時間をかけずにアプリケーションを構築したい起業家たちの間であっという間に広がった。

アマゾンの経営陣が現在取り組んでいるのは、スタートアップ企業の信用を失わずに、はるかに規模が大きい法人市場にアピールすることだ。

「我が社のほうが御社のような大企業のニーズをよく理解しています」と、大企業への売り込みに余念がないのは、眼鏡に無地の赤いポロシャツがトレードマークのヒョロっとした男性、マイクロソフトのスコット・ガスリーだ。
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文=アレックス・コンラッド

この記事は 「Forbes JAPAN No.28 2016年11月号(2016/09/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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