シリコンバレーの未来を大きく左右しかねない今回の裁判では、1887年に制定された法律を最高裁がいかに解釈するかがポイントとなる。1887年と言えばアレクサンダー・グラハム・ベルが電話を発明してからわずか11年後であり、ベル研究所がトランジスタを発明したのは60年後だ。
アップルの主張によると、サムスンは3つの特許を侵害したという。1つは「画面が黒く長方形でエッジが丸い電話」というデザイン、2つ目はフロントフェイスとベゼル、3つ目は16個のアイコンを配したカラフルなディスプレイだ。下級裁判所はサムスンによる特許侵害を認めており、最高裁で争点になるのはサムスンがアップルに支払う賠償額だ。アップルは、サムスンが特許侵害のデザインを使用したスマホで得た売上の全額を支払うべきだと主張している。一方のサムスンは、特許侵害のデザインは特定の製品にかかわるものであり、売上の一部しか支払う必要がないとしている。
知的財産法が専門のオクラホマ大学のサラ・バースタイン(Sarah Burstein)教授は「最高裁の審議の対象になるのは1887年に制定され、今も残っている法律に関する部分です。この法律では特許侵害があった場合、侵害した側は少なくとも250ドルか完成品の売上を賠償しなくてはならないとされています。何をもって完成品とするかが問題になってきます」と説明する。
イノベーションを減速させる可能性
つまり最高裁が出す判決が、今後特許を侵害した会社が払う賠償額に影響するのだ。しかも特許侵害が故意であっても故意でなくても賠償額は同じだ。1回の訴訟で製品のすべての売上額を支払うリスクを負いたくない中小企業は、イノベーションに乗り出しづらくなる可能性がある。「最高裁が完成品を製品と認めた場合、スタートアップにとっては避けたい争いとなり、二の足を踏むようになるかもしれません」とバースタインは指摘する。
最高裁がアップルの主張を認めた場合、マイクロソフトやグーグルといった大手企業による新製品の開発も減速するかもしれない。このような大手企業は特許訴訟で往々にして被告側になるからだ。デザインの特許侵害において損害額が完成品の売上全額だと認められれば、莫大な賠償金を支払わざるを得なくなる。そうなればメーカーを訴えて賠償金をせしめる目的で特許を購入するような幽霊企業などによる“パテント・トロール”を助長することになる。