贈り、贈られたモノや体験は、人生を変えるほどの力を持つことがある。企業のトップ、リーダーたちが経験した、モノや体験に介在する特別な思い入れを紹介する。自身の生き方、サクセスストーリーにも影響を及ぼしたであろう「GIFT」の逸話には人間味あふれる姿がある。希薄化も言われる現代の人間関係とは異なる、特別な関係だ。
THE GIFT #21
石見 陽
メドピア 創業者/取締役会長
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「バカラの招き猫」
かしこまらず、思いをそのまま伝えるため新聞紙に包み届けたという。
深い人間関係がうかがえる。
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メドピアが上場したのは2014年のこと。それまで、私は大先輩であるエージェント・インシュアランス・グループ代表取締役の一戸敏さんに、経営や人生、すべてを相談してきた。当時は、一戸さんも上場を控えていたが、私が先を越すかたちになった。とはいえ間もなく上場するだろうと気楽に考えていた。
そんなある日、一戸さんから着信があった。「石見、上場先送りになったよ……」。私の数倍も上場に大きな意義を見いだしていた先輩の消え入るような声。彼を励ますために何かできないか。ふと思い浮かんだのが「バカラの招き猫」だった。これは私が以前、上場祝いにある方からいただいたもの。思いのこもったものを贈ることで、縁をつないでいきたいと考えたのだ。
あきらめず、すぐに前を向いてほしい。だからあえて箱には詰めず「待ってまーす(笑)」とラフに渡した。その後、22年に上場を果たされた際は、心の底から本当にうれしかった。
現在、一戸さんは何か祝い事があるとバカラの招き猫をプレゼントしているそうだ。贈り物とは、単なるモノのやり取りではない。縁をつなぎ、喜びもつないでいく力がある。私はそう考えている。
石見 陽◎1999年に信州大学医学部卒業後、東京女子医科大学循環器内科学に入局。2004年にメディカル・オブリージュ(現メドピア)を設立。07年に医師専用コミュニティサイトを開設し、現在、日本の医師の約半数が参加する医師集合知プラットフォーム「MedPeer」へ成長。24年12月より現職。