SwissReの報告書には人身事故が2件記載されており、そのうち1件は深刻だった。この事故は、警察に追われた人間ドライバーが赤信号を無視してウェイモ車両、他車、歩行者に衝突したもので、ウェイモ側に過失があるとは考えにくい。それでも保険会社は、いわば「巻き込まれ車両」に対する賠償請求が起きる可能性を考慮してデータを残したようだ。もしこの特殊なケースを除けば、ウェイモの統計はさらに良好となる。
筆者は、規制当局が単に「(不測の事態に伴う)自動運転解除」や事故発生件数などの粗い指標のみを要求するのではなく、過失度合いや発生確率、事故の深刻度といった要素を評価する精緻なデータ収集を推奨してきた。たとえば3名からなる独立した評価委員会で、各事故の責任、重大性、発生確率を評価する仕組みが必要だ。そうすればクルーズの場合、引きずり事故そのものには過失が認められても、全体的な安全性まで否定されることはなかっただろう。情報隠蔽がなければ、事業停止まで至らなかった可能性が高い。
クルーズは事業から退いたが、Zoox(ズークス、アマゾンの子会社)やMotional(モーショナル、ヒュンダイとAptivの合弁会社)は近く展開を目指している。彼らもウェイモ同様、第三者による客観的な安全性評価を行うべきである。また、自動運転の展開を遅らせて人間ドライバーに頼り続けることが、逆にリスクを増大させる可能性も評価する必要がある。
大手自動車メーカーがこの長期戦に耐えられない可能性は以前から指摘されてきたため、クルーズが今回の事故や規制当局からの命令がなくとも撤退した可能性はある。とはいえ、有力プレーヤーの喪失は道路安全や業界全体にとっても好ましくない。競合の存在はウェイモをさらに向上させる原動力になったはずだ。ZooxやMotional、そして拡大を続ける中国勢には、ウェイモを一段と刺激する役割が期待される。テスラはまだ無人運行のロボタクシーを実用化していないが、実現した際には今回のような安全性データの早期開示が望まれる。
(forbes.com 原文)