かつての西部劇にもよく登場する、歴史の古い嗜好品なのに、それがいまでも消費率を上げているというのは不思議な現象だ。アメリカ全体でコーヒー業界の市場価値は2023年には500億ドル(約7兆円)に達し、経済的な影響力が拡大している。
成長著しい全米のコーヒーチェーン
このコーヒー消費増大の理由としては、まず拡大する外食文化の影響が大きい。アメリカでは世代を横断して、ディナーやランチだけでなく、特に朝食をレストランやカフェで食べるケースが増えている。平日はシニア層を中心に、週末はすべての世代の多くのお客が、昼の2時で閉店するような朝食レストランを訪れて、行列に並ぶ。筆者の経験でも、(人口が5万人を超えれば)全米のほぼどの都市に行っても1時間以上行列に並ぶ朝食レストランが必ずあり、コーヒーが美味しくないということはまずない。
さらにコーヒーショップの大手チェーンの拡大もコーヒー消費に寄与している。おなじみの「スターバックス」をはじめとする大手チェーンは2023年に全米で4万店舗を超える成長を見せた。ちなみにスターバックスだけの店舗数は1万7000店と、日本(2000店)の約8倍にのぼる。
アメリカのコーヒーブランドチェーンには、スターバックス以外にも成長著しい企業が存在する。
例えば「ダッチブロス」は、1992年にオレゴン州で若い2人の兄弟によってエスプレッソの屋台として始まり、現在ではフランチャイズ展開とに注力している。同社は独自のエナジードリンク「ブルーレベル」などの革新性ある商品を展開している。さらに、社会貢献活動への参加を若年層に繰り返し呼びかけることで、この層の強い支持を開拓した。現在は全米で900店舗を数える。
チェーン店の拡大に加え、特に若者層の間では、個人経営のカフェや新しいコーヒー体験への関心が高まり、SNSを通じた口コミでも人気が広がっている。単にコーヒーの味だけでなく、サービスや店舗の雰囲気、メニューの多様性が消費者の選択に影響している。
例えばチェーンでない小規模店舗は、独自の組み合わせやメニューを提供し、顧客のニーズに柔軟に応えている。いわゆる「即興」や「思いつき」の「その場限りのメニュー」に客も店員もチャレンジし、冒険心をシェアする。例えそれが失敗したとしても、SNSでシェアされ、結果的に宣伝効果を生むケースも多い。
オフィスでも、会議時にコーヒーを持ち寄るスタイルが増えており、アプリで注文して店舗からコーヒーを持ち帰るケースが多い。これにより、会議の雰囲気が和らぐため、経営者も経費としてコーヒー代を認めることが増えている。