フィンランドのAIスタートアップ、Silo AI(サイロAI)の共同創業者でCEOのサーリンは、7月に同社を米国の半導体大手AMDに6億6500万ドル(約1010億円)で売却した後に、欧州のAI研究者を支援するための財団を設立した。PSと呼ばれるこの財団は、初期の段階で1000万ドル(約15億円)を超える資金を用意して、最大15人の研究者を支援しようとしている。
「私は、ヨーロッパの競争力が心配だ」と語るサーリンは、AIが欧州に利益をもたらすためには、欧州が独自の技術プラットフォームを持つ必要があると述べている。欧州の大学やスタートアップからは、より資金力のある国際的な競合他社への人材流出が加速しているが、サーリンはこれを変えたいと考えている。
ヨーロッパのAI研究者は近年、いくつかの目立った成果を挙げている。アルファベット傘下の英国企業であるDeepmind(ディープマインド)のデミス・ハサビスとジョン・ジャンパーは、タンパク質に関する研究で今年のノーベル化学賞を受賞し、フランスのAIスタートアップMistral(ミストラル)の大規模言語モデル(LLM)は米国の競合に匹敵する性能を持っている。また、画像生成AIの代表格であるStable Diffusion(ステイブル・ディフュージョン)も、ドイツの2つの大学の研究から生まれたものだ。
しかし、欧州はAI分野で非常にうまくやっているが、「商業化には成功していない」とサーリンは指摘する。
フィンランドのサリ・ムルタラ科学大臣によると、サーリンによる寄付の一部は、ヘルシンキのアールト大学に欧州のAI研究者をつなげるための研究拠点の支部を設立するために使用されるという。この研究拠点の第1弾は、2022年にドイツのソフトウェア大手SAPの共同創業の一人であるハンス・ヴェルナー・ヘクターからの1億1500万ドル(約175億円)の寄付を受けてシュトゥットガルトのチュービンゲン大学に最初に設立されていた。
「フィンランドは、他の国では話されていない小規模な言語集団を持つ小さな国だ。この国の文化や法律、言語に基づいたAIの開発が行われることは非常に重要だ」とムルタラ大臣はフォーブスに語った。
サーリンによる支援は、欧州の大学におけるAIの研究にとっての大きな後押しになるが、民間セクターに注がれる莫大な資金と比べると見劣りする。ベンチャーキャピタルのアクセルは、今年だけで800億ドル(約12兆円)がAI関連のスタートアップに投資されたと推定している。
しかし、サーリンは、良いスタートが切れたと考えている。「私は、フィンランドの無償教育から多くの恩恵を受けている。これは私なりの恩返しなのだ」と彼は語った。
(forbes.com 原文)