仏語でRévélationsとは、ラテン語で「明らかにする」という意味のRevalareに由来している。主に秘密を露わにするという意味で用いられ、聖書では天啓や啓示のニュアンスで使われることもあるこの言葉を、新ヴィンテージ披露の場として名付けたのは「ドン ぺリニヨン」だ。「ドン ぺリニヨン」は、すべてのシャンパーニュを単一年に収穫されたブドウのみから製造する“ヴィンテージ”に絶対的なこだわりをもつシャンパーニュ・メゾン。歴代の醸造最高責任者たちは優れたワインができない年にはヴィンテージを発表しないというリスクを背負いながらも、すべてのヴィンテージごとに新しい価値を生み出すことを最大の使命としてきた。
今年、そのレベレーションズの場として選ばれたスペイン・バルセロナに7代目の醸造最高責任者であるヴァンサン・シャプロンの姿があった。世界各国を代表するアーティストやクリエイター、シェフやソムリエら約130名とともに、新ヴィンテージ「ドン ペリニヨン ヴィンテージ 2015」と「ドン ペリニヨン ヴィンテージ 2006 プレニチュード 2」の誕生を祝福するためである。
会場となったのは建築家リカルド・ボフィルによる作品「ラ・ファブリカ」。バルセロナ郊外の閉鎖されたセメント工場を再利用して建てられた空間には高い吹き抜けを活かして上から神秘的な光が差し、30mものロングテーブルがしつらえられていた。ゲストはここでアルベルト・アドリアとニコ・ロミートというふたりのミシュラン星付きシェフによる一夜限りのペアリングディナーを堪能し、シャンパーニュと料理の唯一無二の出会いに酔いしれた。
この日披露された「ドン ペリニヨン ヴィンテージ 2015」について、ヴァンサン・シャプロンは「触感が非常にユニークなワイン」と表現する。ワインにはシルクやビロードなどテクスチャーを表現する用語が多くあるが、この2015は「ホリゾンタル(水平)な触感が特徴だ」と。「ただフラットというわけではなくて小さなフリクションを起こしながら広がっていく感じがしませんか」という彼の言葉を聞きながら、筆者は水面に一石を投じた際に生じる波紋を思い描いていた。シャンパーニュ地方では観測史上最高気温を記録するなど猛暑の夏を乗り越え、ブドウは最高の出来だったといわれる2015年の風景と時間が、一滴のエッセンスとなり口中に広がっていくような……一種不思議なセンセーションである。
同時期にバルセロナ市内にある美術館「パラオ・マルトレル」では「ドン ペリニヨン」の創造のプロセスを伝える展覧会「プレ アッサンブラージュ 2023」も開催。TRACE(痕跡)をコンセプトに、23年のシャンパーニュのブドウ畑の様子やヴィンテージが生み出されるまでの軌跡を、ペインティングや写真、文章などさまざまなアートピースへと昇華。ヴァンサン・シャプロンのクリエイティブな心象風景と時間が存分に表現されていた。
「ドン ペリニヨンの本質的な痕跡、その真実は、口に触れたときの触感です。この触感が失われ、味わいと香りだけではテイスティングの時間と空間を広げることはできません。テイスティングとはワイン熟成までの空間と時間を鏡に映したイメージのようなものなのです」というヴァンサン・シャプロンの言葉に、「ドン ぺリニヨン」とはまさに過去から輝かしい未来を紡ぐシャンパーニュなのだと知った。まもなく日本市場にローンチする新ヴィンテージを、その触感とともにあらためて味わってみたい。