2024年には東京都知事選にも出馬、得票数15万票で「第5位」となる。自らの政策を学習させた「AIあんの」は選挙期間中、6200件以上の質問に回答した。候補者の声が拡声される従来の「ブロードキャスティング型」ではない、AIを駆使して有権者の声を聞き取る「ブロードリスニング型」の選挙戦でデジタル民主主義の実現を目指したその選挙戦には台湾の元デジタル発展省大臣オードリー・タンも熱視線を送り、話題となった。
東大薬学部出身のデザイナー山根有紀也とのアートコレクティブ「実験東京」では、時計を再発明した「生成時計」(後述)、人がつくった影に合わせてAIが影絵遊びをする「幻視影絵」などのAIアートを発表し続ける。
Forbes JAPAN が文化やクリエイティブ領域の活動で新しい試みを展開し、豊かな世界を実現しようとする人たち(カルチャープレナー、文化起業家)に贈られるアワード「CULTURE-PRENEURS AWARD 2024」も受賞した安野氏に以下、話を聞いた。
ビジネスで掘り当てられる領域は限られているが──
ボスコンから連続起業と実業界でめざましい活躍のある安野氏。なぜ山根氏とともに目線を政治やアート、文学にも広げているのか。
「ビジネスで技術の社会実装に取り組み、企業価値をつくることのインパクトは大きいです。しかし、ビジネスで掘り当てられる価値は主に合理化や効率化で、広い価値空間の中での一部だと感じるんです。その点、アートや文学はビジネスにはリーチできない領域を探索できます。技術を政治領域に応用することもその繋がりと考えています」
安野氏は「今の社会は人類の長い歴史の中でも特殊な地点にある」という。これまで人類社会の形は、技術の発展スピードに合わせて変わってきた。たとえばグーテンベルクの活版印刷技術である考えがブロードキャストされるようになったり、産業革命の蒸気機関車の登場で鉄道網が引かれたり、という形の変わり方だ。
「技術の進化スピードが社会の受け入れスピードより早くなる」
だが現在では技術の進化スピードが超高速になってきて、社会が技術を受け入れるスピードを超えてきた。たとえばAIの領域だと、1カ月前にはできないと思われていたことができるようになる。しかもそういう事例が連続的に起きる。「だから、物語が必要なのです」と安野氏は指摘する。
「技術的には可能になっているのに人の頭とマインドがついていかない。だからまだ探索されておらず、あるべき変化が生まれていない領域が膨大にある。私たちはその中で語るべきストーリーを見つけ、アートや小説の形で表現していきたい。これを続けていくことこそが社会を変え得ると思っています」
政治活動も同じだ。政治システムは長い期間変わっていない中、安野氏らは先の都知事選で、新技術を「有権者の声を聞くこと」に応用した。「『今の技術は、社会の人が考えていることをより精度高く推定できるようになった』という物語が根底にはありました」。
新しい技術と物語を掛け合わせたものこそが、最前線で社会のあり方を変える。「それらによって人々の物の見方が変わった時にこそ、社会変化のボトルネックが外れる可能性があります」。