「株価山水図」でMETAの出来値推移を表現
都知事選でそんな「ブロードリスニング型の選挙」を実験してみせた安野氏。では「ブロードリスニング型のアート」はあり得るのか。言い換えれば、鑑賞者からのフィードバックが創作物に影響を与えることはあるのか。
安野氏によると、狭義のブロードリスニングではないものの、社会活動を反映したアート作品という意味では「株価山水図」という作品がある。実在の企業の株価チャートを、水墨画のタッチでAIに表現させた作品だ(下の作品は「META」のもの)。
最後に、渋谷アートアワードで渋谷区長賞も受賞した作品「生成時計」に隠された物語、思想について聞いてみた。
「通常の時計は『今日の3時も明日の3時もまったく同じシンボルで、時間を繰り返され続ける概念』として表現されています。この時間概念は、均質な労働力を作り出してきた近代工業社会そのものです」
本作は一見するとただの風景画だ。ただよく見るとその風景の中に文字盤と今の時刻が巧妙に描かれている。この絵は毎分AIによって新たに生成されるもので、今この瞬間に地球上で朝を迎えている都市の風景がモチーフになっている。この時計で表現したいのは、「今この瞬間の1時25分」は、そこにたまたまいる人しか体験できない、「昨日の1時25分」とは全く異なる無二の瞬間であるということだ。
「時間には一回性があり、この時計の前に立つと『今この瞬間』が二度と巡ってこないことを実感できる。生成AIという技術と時間の一回性という物語。本作を時間や世界の均質性を疑うきっかけにしてもらえれば」
※安野氏はじめカルチャープレナー アワード受賞者については、ForbesJapan (フォーブスジャパン) 2024年 11月号「Forbes JAPAN 11月号「世界を動かすカルチャープレナーたち CULTURE-PRENEURS 30」で


