モスタクの“妄想(Delusion)”
19年にStability AIを立ち上げた後、モスタクはのちにStable Diffusionとなる有望な研究プロジェクトに目をつけ、資金を提供することで同社を初期のAI巨人へ育て上げた。非常に簡単なテキストプロンプトから詳細な画像を生成するソフトウェアの使いやすさは、たちまち人々を魅了した。世界で毎日1000万人が利用していると、23年の初めに同社は語った。一部の信奉者にとっては、モスタクはオープンAIとグーグルのクローズド・システムに支配された空間における、オープンソースAI開発の重要な推進者だった。投資家に対して、モスタクはStability AIがOECD、世界保健機関、世界銀行とパートナーシップを結んでおり、アマゾンとも特注契約を結んで80%のディスカウントを受けていると主張した。また、Midjourneyという人気のあるAI画像ジェネレーターを「共同開発」し、そのユーザーコミュニティを「組織化」したと主張した。彼は、Stability AIはStable Diffusionの知的財産権を所有しており、Runwayという別のAIスタートアップは画像ジェネレーターの独自版をリリースすることでコピーライトを侵害していると述べた。
モスタクの主張の一部は、2022年にStability AIを10億ドルと評価する取引で、優良投資家から約1億ドルを調達するのに役立った。しかし、彼の話は誇張と誤解を招く主張の上に成り立っていた。フォーブスは昨年6月、オンラインで調査結果を発表した。以下はその詳細だ。
・モスタクはオックスフォード大学で学士号を取得したが、彼が主張する修士号は取得していない。
・国連、OECD、WHO、世界銀行はすべてスタビリティのパートナーであることを否定した。
・Stability AIはアマゾンと特別割引契約を結んでいない。同社は2022年に数カ月分の未払い金を積み上げた。
・Midjourneyの創設者であるDavid Holzは、Stability AIは製品を共同開発したり、コミュニティを組織したりはしていないと述べた。
・Stability AIはStable Diffusionの知的財産権を所有しておらず、Runwayに対する著作権主張を撤回した。
・Stable Diffusionはモスタクではなく、ドイツの学術研究者によって開発された。
・研究を主導したビョルン・オマー教授は、その後モスタクがStable Diffusionの創作に不当な功績があると主張し、世間を欺いたと考えている。
──大型資金調達後も、壮大な約束の数々は果たせず、持続可能な事業計画はつくれず、モスタクは自らが生んだAIユニコーンを頓挫させることになった。
エマド・モスタク◎1983年ヨルダンに生まれてすぐに家族でバングラディシュに移住。その後、英国に移住した。2019にStability AIを創業。2024年3月にCEOを辞任。「世界で多く使われる最高のモデルを生み出したチームを誇りに思っている。私は次の課題に挑戦し、そこで結果を出したい」