「クリエイティビティとは、従来のやり方を覆すためのスキルである」
典型的な事例がある。広告会社TBWA博報堂が中心となって企画した「ホタメット」だ。
卵の殻からエコプラスチックを製造する技術を持っていた甲子化学工業と、ホタテのナンバーワン産地でありながら、水産廃棄物として年間4万トンにも及ぶホタテ貝殻の廃棄に悩んでいた北海道猿払村を結びつけ、「ホタメット」をつくり出した。ホタテ貝殻からつくられたヘルメットで、通常より33%も強度を増した商品だ。
「HOTAMET(ホタメット)|守るのは、頭と地球。」
この事例は、2023年11月に発表された、最もメジャーな広告コミュニケーションの国内賞であるACC TOKYO CREATIVITY AWARDSで、デザイン部門グランプリ等を獲得した。また、それに先立って6月にフランスで開催されたカンヌライオンズ2023でも、イノベーション部門ゴールド等を受賞した。カンヌライオンズとは、世界の広告界やマーケティング界で飛びぬけて大きな影響力を持つアワ−ドである。
猿払町のホタテ貝殻は、2021年までは海外に持ち出して処理する契約で処分されていたが、量が増えすぎてその契約の継続ができなくなり、海岸に放置されている状態だった。悪臭や汚染の原因になるとして、専門家からは早急に代替策を講じる必要性が指摘されていた。
ホタテの貝殻。「HOTAMET(ホタメット)|守るのは、頭と地球。」より
従来の処理法の延長で考えると、ひたすら海外の別の受け入れ先を探すとか、コンクリートで固めて海の底に沈める(それが現実的かどうかは分からないが)といった方法が考えられるだろう。
しかし、TBWA博報堂は広告ビジネスで培ったクリエイティビティを発揮した。そもそも貝殻は、“弱い”中身である貝自身を、外界から守るために強い成分でできている。であれば、同じく“弱い”人間の脳を守るためのヘルメットをつくったらどうだろうか、と。
ホタテ貝殻を素材にして新たな製品をつくることになれば、地球を汚す廃棄物だったものが原材料となり、自ずと廃棄物処理にもつながる。この試みによって、ホタテ貝殻の廃棄物は1年で24トン削減される見込みだ。
また、ホタテ漁は危険な業務なので、ホタテ漁師達が皆ヘルメットをかぶっていたことも、この着想を後押ししたようだ。