リボルバー(回転式拳銃)で自ら胸を打ち、1890年に37歳で自ら命を絶ったゴッホは、このわずかな期間に74点の絵画と33点の素描など、数多くの作品を完成させている。
そして、その美術館の出口に近い一角では、粋なブルーのジャケットを着た画家「本人」が、訪れた人たちと話をしようと待ち構えている。赤毛のあごひげからブルーの鋭い眼差し、一部が欠けた左耳までが再現されたこの「AIゴッホ」は、まさに本人のドッペルゲンガーだ。
3Dホログラムのスクリーンとマイクが設置されたそのスペースで提供されているのは、「Bonjour Vincent(ボンジュール・ヴィンセント)」と名付けられたインタラクティブな体験。スクリーンに映し出される等身大の画家に質問し、それに答えてもらうことができる。
生成AIでゴッホに関するさまざまな知識を蓄えた「AIゴッホ」に、最も多くの人が尋ねるのは、自殺の理由だという。ただ、その質問に対する回答は、尋ね方(使われる言葉)によって異なる。
例えば、米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューでは、AIゴッホは、「……どうか、人生を手放さないでください。最も希望がなく、暗い瞬間にも、常に素晴らしいことや希望はあります」と答えている。
また、AIゴッホを生み出したフランスのスタートアップ、Jumbo Mana(ジャンボ・マナ)によると、精神的に不安定だったことが知られているゴッホに対して多くの人が尋ねるのは、「耳を切り落とした理由」。そのほか、「最も気に入っている自身の作品」を知りたがる人も多いという。
テクノロジーで「生きた歴史」を体感
インタラクティブAIや会話型AI、AIによる行動分析などによって歴史上の人物に命を吹き込むジャンボ・マナは、ゴッホが書いた800通以上の手紙を基に構築したアルゴリズムを用いて、AIモデルを訓練した。また、本人の人格を忠実に再現し、その生きた時代の言葉や構文を正しく使用して話すようにするため、ゴッホ研究が専門の美術史家、ヴァウター・ヴァンデアベーンからも協力を得たという。