2023年11月16日、アイナ・ジ・エンドはロンドンのライブハウスThe Underworldにいた。アオイヤマダとのスペシャルユニット「AiNATOAOI(アイナトアオイ)」として、4曲のパフォーマンスを披露したのだ。
ふたりが演じたのは、事前に決めた振り付けが一切ないインプロ(即興)ショー。
「急に、キスするのかな?ってくらいの距離まで顔を近づけて、そのまま20分ぐらい見つめ合う時間もありました。2人の波長が合ったからできたもので、そのアドリブ感がたまらなく楽しくて。インプロだからこそできる、本能的な表現があると思いました」
24年はつくり込まれたコンテンツよりも、インプロが面白くなる──。アイナは自身の経験からそう考える。
「インプロは、日々特訓するものではありません。例えば今、お話をしながら白武さんが私の黒目を見てくださって、私も白武さんの黒目を見ている、この状態もインプロなんです。ここから始まって、次はノックをする動作をしてみるとか、そんなふうに表現していきます」。インプロに必要な感性を育てるため、現在は人に会うことがトレーニングの一環になっている。
「真ん中」にいると何も生まれない
アイナには、舞台に立つ表現者としてだけでなく、音楽を生み出すクリエイターとしての一面もある。それには、人に会う時間に加えて、一人の時間も大切だ。アイナに音楽が“降りてくる”瞬間は、2パターンある。ひとつは、親友とご飯に行って、帰り道にふと「今日はめっちゃ良い日だったな、明日死んでもいいな」と思うような、ハッピーな瞬間。
「歌がメロディと一緒に浮かんできて、家に帰るとそのままパソコンの前で音楽をつくる、なんてことがあります」
もうひとつは、家に一人でいるとき。ソファに座って、天井、壁、換気扇など、目に入る風景や耳に入る音に合わせて踊ってみる。
「すると、自然と涙が出てきて、“きた”って思う瞬間があります。病んでるのかもしれないですが、この感情で歌詞がつくれそうだなと」
ハッピーになりすぎると、言葉が出てこなくて歌詞が書けなくなるというジレンマも。ときには自分の感情を把握するための時間をつくる、といったコントロールが大切だ。ただ、それは常にニュートラルな状態でいればいいというわけではない。
「テンションが上がりすぎる日もあれば、『もう消えてしまいたい、とりあえずこの夜さえ越えれば』と思うくらい落ち込む日もある。その感情の振れ幅のなかで、真ん中がいちばん楽じゃないですか。私は“真ん中”にいたがるけれど、そうすると何も生まれないんですよね」
なぜ“楽”を避けてまで創作を続けるのか。アイナは「乾いた心がメロディになったり、涙が踊りになったり。つくり続けることで自分自身も救われる」と話す。特に21年にファーストソロアルバムを出した時は心がパンパンで、“とにかく出したい”という気持ちでつくったという。
現在のモチベーションのベクトルは、周りの仲間や家族など、自分を支えてくれる人に向いている。
「皆に“ありがとう”の気持ちを伝えられるポップスをつくりたい。そのために、人が聴きやすいメロディを勉強しなきゃ」