テロリストたちが獲得したものは大きかった。基地制圧では12両前後のアチザリットも奪った。アチザリットはイスラエル軍が鹵獲(ろかく)したアラブ諸国のT-55戦車の車台を使っている、かなり重量のある装甲兵員輸送車(APC)だ。
だが重量49トンのアチザリットは、ハマスがナハル・オズで奪った最も重いAPCではなかった。ハマスの戦闘員らは少なくとも1両のナメルも奪取した。世界でも最重量級で、最も防御力の高い兵員輸送車だ。
重量が70トンもあるナメルは巨大だ。ナメルよりもわずかに重い戦車もあるが、そう多くはない。例を挙げると、米国の最新型のM1A2エイブラムス戦車があるが、戦車の重量の少なくとも3分の1は砲塔と主砲が占める。ナメルは遠隔操作式の機関砲を搭載しているが、その重量は2トン未満だ。
ナメルの場合、防御のための装備がその重量を占めている。爆発反応装甲の下にはセラミックや鋼鉄、ニッケルが何層にも重ねられている。
ナメルはイスラエル軍が独自に開発した。その開発は1982年のイスラエル軍のレバノン侵攻に端を発している。同軍の旅団が82年にレバノン南西部の街ティルスに侵攻したとき、パレスチナの対戦車ミサイル部隊が待ち構えていた。
イスラエル軍のAPCであるM113はミサイル部隊にとって格好の標的だった。重量14トンのM113をあっという間に数両破壊した。「すぐにイスラエル軍の歩兵は市街地でM113を降りて移動した」と米陸軍大尉のジェームズ・リーフは同軍機甲学校が出版している軍事専門誌『アーマー』に2000年に掲載された論文で説明している。「APCはすぐに支援の役割に追いやられた」。
薄いアルミ製の装甲を持つ1960年代のM113は、当時から対戦車兵器に対する防御力に乏しかった。イスラエル軍はこのことを辛い経験を通して思い知った。2014年にハマスの戦闘員がロケット推進擲弾でM113を攻撃し、兵士7人が死亡したのだ。
1982年の戦争後、イスラエル軍はAPCを適切なものにしようと決意。かなり重くする必要があったため、イスラエル軍は鹵獲した数百両のアラブ諸国のT-55戦車の砲塔を取っ払ってアチザリットに改造した。
だがアチザリットは一時しのぎのものだった。イスラエル軍はさらに重量のある新APCのベースとして新型のメルカバ戦車に目をつけた。ナメルの開発には時間がかかり、物議を醸した。しかし、最初の2両が2008年のガザ戦争に投入されたとき、その価値はすぐに証明された。そして6年後、イスラエル軍が再びハマスと戦争を始めたときには120両ものナメルが運用されていた。
かなりの重量であるナメルは、イスラエル軍が2014年にガザに侵攻した際、ロケットやミサイルによる攻撃をしのいだと報じられた。10月7日にハマスが鹵獲したナメルは、イスラエル軍が初めて戦闘で失ったものになる。この損失はミサイルやロケットではなく、テロリストの奇襲攻撃によるものであることは明らかだ。
ナメルの戦争は始まったばかりだ。ガザとの境界沿いに集結したイスラエル軍の旅団は約300両のナメルを運用している。これらのナメルは近いうちに戦闘に従事するだろう。
(forbes.com 原文)