食&酒

2023.08.02 12:30

ガストロノミーの力で社会変革を 店を持たないトルコ人シェフの活動とは

残念ながら次点に終わった2人のシェフも紹介しよう。

まず一人目が、ノルウェーのハイディ・ベルカン(Heidi Bjbekan)シェフ。1998年にレストラン「Credo」をオープンし、オーガニック食材を自身の料理のメインに据えるだけでなく、地域の生産者と関係を築き、食材を最大限に活用する方法を考案。生物分解性廃棄物は肥料にして生産者に活用してもらったり、ラップなど生分解性のない素材は使わずに食品を保存する方法をとったりしている。

店の外では、社会的・経済的資源に乏しい人たちに小規模な食に関するビジネスを起業する機会を提供する「Vippa」という起業支援団体に参加。ノルウェーの若者や移民に向けて1年間の職業訓練を行い、研修終了後は起業に必要な物質的・金銭的支援を行っている。また、ここ数年は「Geitmyra Credo」という食文化センターの活動を促進し、多くの子供や若者に健康で持続可能な食品を料理する喜びを教えている。

もう一人が、イギリスのニコール・ピザンニ(Nicole Pisani)シェフ。2014年にロンドンの有名レストラン「NOPI」のヘッドシェフの職を離れ、「CHEFS IN SCHOOL」というプロジェクトに参加した。小学校の給食を見直し、子どもたちの身体と心を養うことが目的だ。

実践的な食の教育をすることで子どもと食の関係を再構築し、料理が持つ文化的側面や伝統が息づく祝祭的な側面にも興味を持たせるように努力している。

また、学校で菜園を作り、動物を育てて屠殺場に送り、命の大切さや食の知識を知らしめる、教育を行っている。限られた予算で学校の厨房という特殊な環境に適応して美味しい食事を提供し、現在ではイギリス80校以上の小学校にこのプロジェクトが導入されており、1日に3万人以上の生徒に給食を提供している。 

名前からだけではわかりづらいかもしれないが、今年は最終選考に残ったシェフはいずれも女性であった。これには、委員会側がダイバーシティを強く意識しているということもあるかもしれない。しかしながら、彼女たちの活躍を見ていると、「こども食堂」も、災害時の炊き出しも、郷土料理の継承だって範疇だと、勇気がわいてくる。大切なことはそれをやり続けていく力と発信していく力なのだろう。

日本ではまだ知名度のないアワードだが、最初の一歩が自薦他薦であるならば、ぜひ、日本からも声を上げるシェフの登場を願いたい。

カンファレンスでは、審議員のシェフたち同士が2人、3人にわかれて、さまざまな社会的議題に関して話し合った。世界的にまだまだ少ないジェンダーダイバーシティの問題、フードロス、生産者との関係、ベジタリアンやヴィーガン、ホスピタリティなど、それこそ食に関するありとあらゆることが話題となった。

日本でこうしたガストロノミーサミットが行われたことも大変に意義のあることであったし、日本を代表するレストラン「NARISAWA」オーナーシェフ成澤由浩氏が、会議全体のホストを務めたことは大変に誇らしいものであった。

文=小松宏子 写真=Basque Culinary Center

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