キャリア・教育

2023.07.21 17:00

共振を生んだ「ダボス会議」 日本仏教を企業、世界、未来に開く

松本紹圭 僧侶/Ancestorist

日本の法事や仏事は、日本の伝統をトリガーとした「マインドフルネス・プラクティス」である──。「寺」を根本から問い直し、既存の枠組みを揺らし続けてきた松本紹圭が描く日本仏教の可能性とは。


自らを「僧侶/Ancestorist」とする松本紹圭は、北海道の寺の外孫として生を受けた。人生、最後には誰もがすべてを手放してゆく。物心ついたころから「いかに生きて、いかに死ぬのか」という問いを抱き続けていたという。

東京大学では哲学を学んだ。企業への就職も考えたが、しっくりこない。住み込みで働き始めたのが東京・神谷町にある光明寺だった。

「仏陀が説いた、生きる道を学ぼうと思った」

だが、日常はひたすら掃除、法事、葬式である。松本には「過去ばかり見ている」ように思えた。そこで僧侶の規定演技は修得しつつも、本堂での音楽LIVEイベント開催やオンライン寺院「彼岸寺」の立ち上げなど、寺を開かれた存在にするための自由演技にも取り組んだ。

一方、ビジネス界と仏道の橋渡し役になりたいとの思いから単身インドに渡り、2012年にインド商科大学院でMBAを取得。住職向けのお寺経営塾「未来の住職塾」を立ち上げるなど、業界の既存の枠組みを揺さぶる働きを続けてきた。

松本は、現代の日本仏教の構造を「日本のお寺は2階建て」と説明する。1階部分が法事などの「先祖教」、2階部分がマインドフルネスを含めた「仏道」だ。しかし、1階と2階はどのような関係性になっているのか。思考の過程で出合ったのが、ローマン・クルツナリックの著作『The Good Ancestor』だった。

自分の内面を過去と未来の人たちに開く

「仏壇に手を合わせるといった慣習は、先祖のほうを向きながらも同時に『私もいつかそちらに行く。そして次の世代の人たちが、いまいる場所に座る』という思いが含まれている。自分の視点が狭かったと気づきました」

1階の「先祖教」は過去に閉じた空間などではなく、未来につながっている。実はこれこそ、日本の仏教の慣習をトリガーとしたマインドフルネスなのではないか──。

この仮説を実証するために23年1月、経済界などのリーダー層が集まる「ダボス会議」でアンセスター(祖先)を柱に据えたモーニング瞑想を行った。過去と未来の間に自分が「在る」ことを内側で感じながら、その意識をより開かれた他者へと広げていく。そして最後に、世界のリーダー層を未来思考へ誘うためにこう問いかけた。

「私たちはいかにしてよりよき祖先となれるか」

それは、分断が進む社会や地球規模の課題について連日、話し合いを続けてきたビジネスリーダーたちを長期的な視野へと誘う時間だった。

「アンセスターのユニバーサルさが証明された感覚がありました。仏教のコンテクストを生かしながら人や企業を長期思考へとリードすることは、世界への貢献になると思っています」


松本紹圭◎世界経済フォーラムYoung Global Leaders Alumni、Civil Societyメンバー。東京大学哲学科卒。著書に『お坊さんが教える こころが整う掃除の本』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。翻訳書に『グッド・アンセスター わたしたちは「よき祖先」になれるか』(あすなろ書房)。

文=瀬戸久美子 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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