まず、「人的資本経営」の重視度については、最多が「重要だと認識している」で36%。次いで「やや重要だと認識している」(33%)となり、「重視派」が合わせて約7割(69%)を占める結果に。前回調査(2022年)では「重視派」の割合が34%で、うち「重要だと認識している」の割合は8%だったことから、この1年で急速に人的資本経営について企業の意識が高まっていることが明らかになった。
「人的資本経営」の重視度
続いて、「パーパス浸透」「従業員エンゲージメント」「社員のキャリア自律」「社員のウェルビーイング」4つの人材施策の重視度を調べたところ、「重視している」割合が最も高かったのは、「パーパスの社内浸透」で30%。一方、最も低かったのは「社員のウェルビーイング」で17%となり、両者には倍近くの開きがあった。いずれの施策においても「やや重視している」を含めた「重視派」の割合は6割を上回り、いずれの施策も重視する企業の方が多数派であることが分かった。
4つの人材施策の重視度
さらに、現在の業況(※)について、各人材施策の重視度が高い企業群、及び「イノベーション風土」と「レジリエンス」に関する組織力がある企業群の平均値を並べて分析した。すると、最も業況の平均値が高かったのは、「人的資本経営の実施」企業群で2.94。一方で、最も平均値が低かったのは、「従業員エンゲージメント重視」の企業群で2.75だった。同社は、人的資本経営が従業員エンゲージメントより踏み込んだ具体的な取り組みであり、それを実施している企業群だからこそ業況が良好な傾向にあると推測した。
人材施策の重視度・組織状態による業況の違い
他にも、経済産業省が公表している「人材版伊藤レポート2.0」で挙げられている、人的資本経営を進めるための人材戦略に必要な視点への取り組み状況についても調査。一つ目の視点、「経営戦略と人材戦略の連動」については、大企業で「取り組み中」の割合が最も高かったのが「人材面での全社的な経営課題の抽出」で60%(全体37%)に。HR総研は、前回調査では最多が「経営戦略の意思決定への人事部門の関与」(55%)だったことを踏まえると、やや踏み込んだステージに入っている企業が増えていると推測した。
一方、大企業で「取り組み中」の割合が最も低かったのは、「人材に関するKPIの役員報酬への反映」で25%(全体12%)。昨年と同じだった。大企業で「取り組み中」の割合が過半数に達している項目が複数あることから(昨年調査では1項目)、「経営戦略と人材戦略の連動」について取り組みを進める企業が増加していることが期待される。
視点1:「経営戦略と人材戦略との連動」への取り組み状況
2つ目の視点、「As is-To beギャップの定量把握」への取り組み状況については、「人事情報基盤の整備」で「取り組み中」の割合が最も多く、大企業で49%(昨年40%)、全体で32%だった。HR総研は、他の2項目は「人事情報基盤の整備」ができたうえで、現在の姿と目指すべき姿とのギャップを定量的に可視化するために必要な取組みであり、今後、重要なステップになると解説した。
視点2:「As is(現在の姿) - To be(目指すべき姿)ギャップの定量把握」への取り組み状況
HR総研 客員研究員の曽和 利光氏は、「人的資本が可視化されて正しく評価されるようになることで、各企業はステークホルダーの理解を得ながら、積極的な人材投資をしやすくなるであろう。ただこのことは、人事担当者の説明責任が増大することでもある。自身の推進する人事諸施策において、より成果を意識することも要求される。この緊張感が、人事諸施策を磨き上げることにもつながると期待したい」とコメント。さらに、日本企業の人的資本経営は課題の洗い出し段階にあり、「まだ始まったばかりだ」と述べた。
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