米国とデンマークの共同研究チームは、ベールズの演奏を他のジャズピアニストと比較。結果、多くのミュージシャンがアドリブ時に非常に似通ったパターンを使用しているものの、それぞれが音楽表現で独自の「ボキャブラリー(語彙〈ごい〉)」を持っていることを確認した。
ジャズミュージシャンはアドリブをする際、「リック」と呼ばれるさまざまなフレーズを使用する。リックは記憶できるもので、ジャズ演奏の習得の際には指導役がその例をいくつか演奏してみせることが多い。
ただ、熟練のジャズミュージシャンはこうした標準的なリックを組み合わせる以上のことをしているようだ。その際に何が起きているのかは、音楽研究者の関心を集めてきた。ジャズミュージシャンは、選ぶべき音についての直感的な法則を習得するのだろうか? それとも、各自が独自のリックの引き出しを増やしているのだろうか?
この問いへの答えを突き止めるべく、米ジョージア州立大学のマーティン・ノーガードはデンマーク・オーフス大学の研究者と共同で研究を行い、その結果を科学誌コグニション(Cognition)に発表した。
研究チームは、ベールズがMIDI形式で残した録音を、5音ごとのパターンに細分化してコンピューターで分析。どのリックが演奏を通じて繰り返されたかを調べた。
抽出されたパターンを他のミュージシャンのものと比較した結果、ベールズのリックのタイミングや強さは演奏時いつも一定だったものの、他のミュージシャンらが使う類似のリックとは聞こえ方が異なることを発見した。これは、リックが毎回確実に同じように聞こえるようにする独自の方法を各ミュージシャンが持っていることを示唆している。つまり、ミュージシャンは独自の音楽的なボキャブラリーを作り上げていたのだ。
ノーガードは「熟練したジャズミュージシャンは音と運動表象、つまりリックの音と、それをどう演奏するかの情報を脳内に保管している」と説明。
「私自身もジャズバイオリン奏者として、アドリブ中に演奏したいリックが聞こえるものの、運動表象が完全ではないため、そのリックをうまく演奏できないことが多い。今回の研究結果からは、スキルを磨くことでこれが減るはずであることが示された」と述べている。
(forbes.com 原文)