自分とじっくり向き合い、救急医から起業家へ

Isha health 島田 舞

救急医療の研修医として最初に診療を始めたのは、ニューヨークでも最も過酷な職場として知られる、ブルックリンの移民街にあるマイモニデスメディカルセンターだった。北京語を話せない中国人や、マラリアの症例をもつアフリカからの移民の子など、毎日さまざまな患者が運ばれてくる。

「さながら野戦病院といった感じでした」

島田舞はそう振り返る。

米国で救命救急医として10年のキャリアを積んだ島田は昨年、起業家に転身し、周囲を驚かせた。オンラインをベースとした心療カウンセリングサービスIsha Healthをサンフランシスコで創業。島田を含む医師や心理セラピストの専門家チームが、個別のカウンセリングを通して最適な療法を提案。場合によっては、ケタミンという医薬品の処方と心理カウンセリングを合わせた治療を提供する。

救急医療の現場では、心を病む患者を多く診た。現場では救える命は限られている。「もっと大きなインパクトを求めての転向だ」と島田は語る。だが、自身の経験も大きく影響している。

「救急医として、多忙を極める現場で働いていると、本来患者さんのお手伝いをしたい、助けたい、と思って始めた仕事なのに、必ずしもそうではない現実がありました」

コロナ禍では、命の選別を余儀なくされる状況にも幾度となく立ち会った。目の前で、あまりにも悲惨な状況が繰り広げられるなかで、患者は次から次へとやってくる。

患者を「人」ではなく「症例」や「もの」として見ている自分に驚いたという。ストレスフルな毎日のなかで、自分と周りを切り離し、感情を排除する自己防衛本能が働いた。危機感を覚えた島田は、じっくり自分自身と向き合うことにした。そこで出合ったのが、ケタミンによる診療法だ。ガチガチに固まっていた自己防衛の壁が、自然なかたちでほぐれた。

「患者さんのなかにも、社会的な要求と本来の自分が乖離し、メンタルに不調をきたしている人が多い」

重要な節目で「自分のやりたいこと」を追求する。それが島田の処方箋だ。


島田 舞◎東京大学医学部医学科卒、ニューヨーク、サンフランシスコで救命救急医として複数の病院に勤務したのち、INSEAD経営大学院修士課程修了(MBA)。2021年サンフランシスコでIsha healthを創業。

文=岩坪文子 写真=ヤン・ブース スタイリング=堀口和貢 ヘア=コータロー(センス オブ ヒューモア) メイク=山田千尋

この記事は 「Forbes JAPAN No.099 2022年11月号(2022/9/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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