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2022.11.21 09:30

デジタル社会に必要なのは、リアルなつながりの場だ

エリック・クリネンバーグ

エリック・クリネンバーグ

新型コロナウイルスの感染拡大によって、私たちはいかに自分たちが脆弱であるかを実感し、不安や痛みを共有した。それにより、私たちにとって価値があるサービスや、支援を必要とする人々に対してより強い共感の心をもてるようになったのではないだろうか。

クラウドファンディングは個人から小口の金銭的支援を集める手法だが、一人ひとりの金額は少額でも、集まれば大きな力になる。コロナ禍でクラウドファンディングを通じた支援が増加したのは、社会を象徴する動きだった。

しかし、あくまでもインターネットはコミュニケーションのインフラであると私は考えている。もちろんデジタル社会のおかげで、今回のようなパンデミックでも私たちは仕事を続けることができたし、教育現場では授業を再開することもできた。オンラインで肉親に会うこともできた。

しかし、私たちにとって真のソーシャル・キャピタル(社会関係資本)を構築するためには、実際に会ってお互いにつながりをもつことができる社会的インフラ(ソーシャル・キャピタルを築く場所)が必要なのである。

その証拠に、例えば現在の何十倍もの強毒性をもつコロナウイルスが再び世界で猛威を振るい、あと一年自宅で過ごさなければいけないとしたら、私たちは耐えることができるだろうか。

インターネットがあるからまったく問題ないと答える人は、ほとんどいないのではないだろうか。それはなぜだろう。私たちは心の奥底で、デジタルは本当の意味での社会的インフラにはなりえないということを理解しているからだ。

では、どのような社会的インフラが必要なのだろうか。もちろん、レストランやカフェ、映画館やコンサートホールなどの民間施設は重要な社会的インフラだ。それに加えて、貧富の差にかかわらず誰でも利用が可能な図書館、学校施設、公園、その他の公共施設は、私たちの相互理解や連帯感を生み出すうえで欠かせないものである。

デジタルの世界だけにとどまっていては、周囲の人々に対する「モラルコミットメント」(道義的責任)を感じることは難しい。公共の場所にアクセスできる状態にあり、「自己の存在より大きい何かの一部である」という感覚をもてることが、健全な社会を築くためには重要なのだ。

エリック・クリネンバーグ◎ニューヨーク大学社会学教授、パブリック・ナレッジ研究所所長。著書は『Heat Wave』『集まる場所が必要だ──孤立を防ぎ、暮らしを守る「開かれた場」の社会学』など。ニューヨーク・タイムズ・マガジン、ワシントン・ポストなどにも寄稿。

文=中田浩子 編集=瀬戸久美子 写真=ヴィンセント・トゥッロ

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