私たちがこのカルチャープレナーに興味をもったのは、2つの理由がある。ひとつは、日本が文化立国を目指すべきであり、文化的成熟度を高める必要があると考えるからだ。日本は、世界経済フォーラムが発表した「旅行・観光開発指数」世界ランキング1位(2021年)であり、なかでも「文化資源」の項目が高く評価され、経済全体へのインパクトも期待されている。
もうひとつは、コロナ禍を機に人々が社会の持続可能性を意識するようになったことで、循環型経済、なかでも「小さく巡る経済」(自分が住む地域のなかでの循環型経済)の流れが顕在化すると感じているからだ。地域や人々は今後、より自律的な存在になることが想定される。
カルチャープレナーの象徴的な存在ともいえるのが、「お茶で、日本文化の価値を世界へ証明する」というミッションを掲げるスタートアップ、TeaRoomだ。衰退産業と見られがちな、伝統文化の「お茶」を商品としてではなく、価値をつくる手段と定義して、数々の体験や事業構築を提供している。文化の価値を世界で証明するために取り組んでいるという、彼らのような新しいタイプの起業家が若い世代を中心に増えている。
こうしたスタートアップ起業家、社会起業家とも異なる、文化や地域に愛情があり、付加価値を創出するカルチャープレナーは、日本において重要な役割を担うと考えている。その背景にあるのが、文化的成熟度というキーワードだ。
日本はほかの先進国と比較すると、ひとり当たりの文化に対する投資額、消費額が少ない。社会面での成熟度は高いが、文化面では遅れているというのが実情だ。だからこそ、国や地域の文化資源に新しい価値を付与して、事業化するプレイヤーがより必要とされるし、さらには、まだ価値がついていない魅力的な文化的資源の再発見と再解釈が重要になっていく。
こうしたアプローチは、近年、イノベーションを生み出すための方法論として注目を集めている「意味のイノベーション」にもつながる。世界の人々の「日常」に新たな文化、消費の回路を築き、また、和食や禅など日本文化に関心がある世界の人々にも、日本の新たな文化を伝える役割を担うからだ。国や地域にある文化をうまく拾い上げ、価値にしてきた人たちは、これまでも日本各地に存在してきた。
ただ、彼らを「地域で革新的なことをしている人」ではなく、「カルチャープレナー」と名付け、重要な存在であると再定義することが必要だ。そして、ノウハウ共有や、世界への情報発信しやすい環境を国や自治体、民間で整えれば、よりその魅力や価値が高まり、日本の文化成熟度も同様に高まるだろう。
文化資源に、新たな意味と文脈をつくる「カルチャープレナー」の活動を「点」ではなく「面」にする動きにより、経済的なインパクトも包含しながら発展することは、地域のため、社会のため、ひいては日本のためになるのではないか。
さそう・くにたけ◎BIOTOPE CEO兼Chief Strategic Designer。P&G、ヒューマンバリュー、ソニーを経て、独立。多摩美術大学特別准教授など。
いしはら・りゅうたろう◎BIOTOPE Editor。DeNA、経済誌「Forbes JAPAN」編集者を経て現職。