ユネスコ世界遺産に登録されているグレートバリアリーフの形成については、サンゴ礁を構成するサンゴが成長するために、過去260万年以上にわたって構造的に安定した地下環境を必要としたこと、オーストラリアが独自の地殻プレートの内部にある非常に古い大陸であり、そうした安定した環境を提供してきたことを除いては、ほとんど知られていない。
しかし、ユタ州立大学の地質学者タミー・リテナーと国際研究チームが新たに発見した内容は、約80万年前にこの象徴的な地形が形成され始めた背景には、現代の問題でもある「海面上昇」が関係していることを指摘している。
リテナーの研究チームは、世界最大の砂の島「クガリ」(現地固有の名でフレーザー島を意味する)で採取したサンプルを分析し、オーストラリア東部沿岸の海水準変動を再現した。
「私たちの研究は、クガリ島とグレートバリアリーフの形成が、気候の大きなフィードバック変化による海面上昇・下降の大きさの変化と関連していることを示す証拠となります」とリテナーは説明する。
学者らは、手で掘り上げたコアと海岸の断崖から採取した堆積物サンプルを用いて、光刺激ルミネセンス法(放射線や紫外線の照射を受けて準安定状態にある物質が、光エネルギーを吸収することにより発光する現象を利用する)により、海岸の砂の大部分を構成する石英結晶が最後に太陽光にさらされた時期を特定し、島の広大で明るい色の砂丘と、隣接するクールーラ砂塊の砂丘の形成時期が限定されることを発見した。
「砂島と砂丘が最初に形成されたのは、120万年から70万年前の気候変動期で、地球上の氷の量が増えて海面が変動し、大陸棚に蓄積されていた土砂が再分配されたことがわかりました」とリテナーは語る。
海流の変化により堆積物が再分配され、海岸沿いに巨大な砂島が形成された。フレーザー島ができたことで、サンゴの成長に必要な理想的な条件が整い、グレートバリアリーフの形成が可能になったのだ。
「クガリができたことで、海岸沿いの砂が北上し、現在のグレートバリアリーフのある地域へと運ばれるのを防ぐことができました」砂粒は繊細なサンゴのポリプ(イソギンチャクのように固着して触手を広げる刺胞動物の体の構造の1つ)を埋めてしまい、殺してしまうことがある。そのため、グレートバリアリーフの透明な水は、グレートバリアリーフの存在に不可欠な条件なのだ。クガリがなければ、過去80万年の間、土砂がバリアとして働き、サンゴやサンゴ礁の発達を妨げていた可能性が高いというこだ。
「これらの重要な発見は、沿岸の堆積システムの見方を変えるものです」とリテナーはいう。「この中期更新世における沿岸条件の大きな変化は、おそらくオーストラリア東部沿岸に限ったことではなく、世界中の他のパッシブ・マージン(大陸と海洋の境界)の海岸線でも調査されるべきでしょう」と、リテナーは述べている。
論文『Fraser Island (K’gari) and initiation of the Great Barrier Reef linked by Middle Pleistocene sea-level change』は、『ネイチャー ジオサイエンス(2022)』 に掲載されている。
(forbes.com 原文)