宇宙

2022.11.13

ツタンカーメンの墓で見つかった謎の宝石、小惑星が地球に衝突して形成された可能性

ツタンカーメンの黄金のマスク(Getty Images)

1922年11月4日、1人の少年が偶然見つけた石は、王家の谷(Valley of the Kings)の大きな岩に刻まれた階段の最上段だった。王家の谷はナイル川西の砂漠の人里離れた渓谷にある。古代エジプトでは、この渓谷は死者の地と考えられており、多くのファラオ(エジプトの王)がここに埋葬された。1922年、英国の考古学者ハワード・カーターはここでツタンカーメンの墓を探していた。当時、紀元前1332~1323年にエジプトを統治したツタンカーメンは比較的マイナーなファラオだった。

1カ月後、カーターはそのファラオの墓に入った。埋葬室の中に何か見えるかと聞かれた彼は、「見えるとも、すばらしい品々が」と答えたといわれている。

ツタンカーメンの墓は、象牙で作られた彫像や貴金属、宝石などでいっぱいで、黄金の馬車まであった。ある宝物箱の中で、カーターが見つけた胸当ては、金銀やさまざまな貴重な宝石とともに奇妙な宝石が飾られていた。その胸当てには、神ラーが黄色い透明な石で作られた翼のあるスカラベとして、太陽と月を載せた天空の船を空に向かって持ち上げている姿が描かれている。

Pendant
ツタンカーメンの胸当て。デザートグラスを彫刻したスカラベが使われている(J.BODSWORTH/WIKIPEDIA)

カーターは当初この宝石を、玉髄(ぎょくずい、カルセドニー)という石英の一般的な種類であると同定した。10年後、英国の地理学者パトリック・クレイトンがリビア砂漠の近代エジプトとリビアの境界に沿って探索していた。そこで彼は、砂の中に奇妙なガラス片をいくつか発見した。淡黄色で透明な材質は、ツタンカーメンの墓で見つかった宝石と同一だと思われた。2年後に彼は短報を発表し、リビアンデザートグラス(LDG、リビア砂漠のガラス)の断片は石英を多く含んだ乾燥湖の堆積物であることを示唆した。1998年、イタリアの鉱物学者ヴィンチェンツォ・デ・ミケーレは、ツタンカーメン王の胸当ての光学特性を分析し、これが確かにLDGの破片であることを確認した。

LDGはほぼ純粋な二酸化ケイ素で構成されているが鉄、ニッケル、クロム、コバルトおよびイリジウムの微量成分を含んでいる。地球上で最も稀少な鉱物の1つであり、リビア砂漠の中でも最も人里離れて荒涼とした地域とされるギルフケビル高原北部のグレート・サンド・シーでのみ見つかっている。
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翻訳=高橋信夫

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