政策起業家という概念は40年以上前からあり、欧米では研究も盛んに行われてきた。日本でも2019年に、研究や連携を進めるための「政策起業家プラットフォーム(PEP)」が設立されるなど、盛り上がりはじめている。
いまあらためて注目されている背景には、社会課題が多様化、複雑化し、行政だけでは解決できない社会問題が増えてきたことがある。また、高度成長期は経済や市場が拡大し、政治や行政はその果実である利益をいかに再分配するかを考えるだけでよかったが、成熟期になり、経済や社会的な負担や痛みをどう分け合うべきかといった「不利益の再分配」も重要になってきているからだ。
政治は、選挙を通じて選ばれた議員が、有権者の意見を反映して議会で政策を話し合う。そのため、公益性の観点から、どうしてもバランスを図る必要が生じる。普遍性が少ない、特定の社会課題や困窮している人をストレートに救うのは難しい。
社会的事業も、経済合理性の観点から逃れられない。NPOや草の根の活動家は、特定の社会課題や人に直接アプローチできるとはいえ、予算や人材面で制約があり、助けられる人も限りがある。
政策起業家は、「政策」という観点から各々の足りない部分を補い、社会的な課題を、持続的に解決することに寄与する。ポイントとなるのは「社会実装」だ。
問題点や解決方法を指摘したり、改善点を主張したりするだけでは、政策提言団体やロビイストと変わりがない。予算や法案といった具体的な政策づくりまでしっかりと道筋をつけることが大事だ。公益を考えて実際に行動するアクターだ。
政策起業家の役割は今後増えていくだろう。「不利益の再分配」がより求められるようになるということは、政治や社会的事業などのアプローチでは成立しない領域が増えることを意味するからだ。なかでも、地方での活躍が期待される。
地方もそれぞれ多くの課題を抱えているが、地域の事情や歴史的な背景は異なり、全国で一律的に同じ解決策が通用するかというと、決してそうはいかない。地域ごと、課題ごとに異なる現実的なアプローチをいかに生み出せるかが大切だ。
その意味で、政策起業家に求められるのは、行政や社会起業家、市民らと手を取り合って「共創」できるようなキャラクターや能力だ。
特に若い人から多くの政策起業家が出てきてほしいと思っている。なぜなら、いまは日本の民主主義も転換点にあるからだ。有権者の3分の1が高齢者で、その割合はこれからも増えるのは間違いない。既存の政治や選挙の仕組みのままでは、若い世代は不利益を受け続けることになる。
世代間のバランスの取れた政策を実現するためにも、政策起業家の役割はますます重要になる。若い世代の政策起業家が増えることがその一助になるはずだ。
みつい・しゅんすけ◎NPO法人SET理事長。元岩手県陸前高田市議。特定非営利活動法人新公益連盟北海道・東北ブロック共同代表。宮城大学大学院事業構想学研究科博士前期課程修了。政策起業家についての研究に取り組む。訳書に『政策起業家が社会を変える』。