大気汚染物質、胎児の脳や臓器に到達する可能性 発育に悪影響も

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英国のロックバンド、ホリーズに「The Air That I Breathe」という歌があるが(編集注、もともとはシンガーソングライターのアルバート・ハモンドの曲)、その歌詞に有害な大気汚染物質の話は出てこなかった。だが、残念ながら昨今の大気汚染ぶりを考えると、今日では多くの妊娠中の女性も、そうした物質を吸い込んでしまっているおそれがある。

ランセット・プラネタリーヘルス誌に掲載されたばかりの最新研究によると、この粒子状物質は胎盤を通って胎児の肝臓や肺、脳にまで到達する可能性がある。こうした物質に早くからさらされると臓器の発達に影響が出るおそれがあるため、これは胎児にとって明らかに憂慮される事態だ。

ベルギーのハッセルト大学やルーベン・カトリック大学、英国のアバディーン大学の研究チームは2部からなるこの研究で、母親や胎児から血液や組織のサンプルを採取し、大気汚染物質のブラックカーボン(黒色炭素)粒子が含まれるかどうかを調べた。

ベルギーの母親を対象とした第1部では、無作為に選んだ60組の母子の臍帯血サンプルからブラックカーボン粒子の痕跡が見つかった。これにより、こうした大気汚染物質は胎盤を通って胎児の循環系に入り込む可能性があることがわかった。さらに、検出された粒子の量と、母親が妊娠中にブラックカーボンにさらされた程度との間には強い相関が認められたという。念のために言えば、喫煙歴のある母親は調査対象から除外されている。

研究の第2部では、英スコットランドのアバディーンとグランピアン地域の母子を対象に、妊娠7〜20週で中絶された胎児36体の組織サンプルを解析した。その結果、全36体の肝臓と肺からブラックカーボン粒子が見つかり、14体は脳からも見つかった。こちらのグループでも、コチニン濃度の測定によって母親が非喫煙者だったことを確認している。

今回の研究結果が懸念すべきものであるのは明らかだ。ロックバンドのトロッグスやウェット・ウェット・ウェットは「Love Is All Around」と歌ったわけだが、周りにあるのは大気汚染だと言うべきなのかもしれない。世界保健機関(WHO)によると、現在、世界全体の人口の99%が、WHOのガイドラインで定められた制限値を超えるほど多量の汚染物質を含んだ空気を吸っているという。

米国立環境健康科学研究所(NIEHS)のウェブサイトには、大気汚染と、がんや循環器疾患、呼吸器疾患、糖尿病、肥満、生殖や神経、免疫系の障害など、さまざまな病気との関連性を示した研究がまとめられている。また、これまでに、妊娠中に母親が大気汚染粒子にさらされることと、妊娠中の問題や新生児の予後不良、分子変化との間に関連があることも明らかにされている。

つまり、大気汚染は本人だけでなく、生まれてくる子どもの健康にも影響を与えるおそれがあるということだ。わたしたちの未来は子どもたちにあると信じるなら、大気汚染を減らす世界の取り組みが不十分なことも考え合わせると、これはあまりよくない兆しということになるだろう。わたしたちの社会が大気汚染を減らす側になるまで、発育や発展に関する問題をまだかなり抱え続けることになるかもしれない。

forbes.com 原文

編集=江戸伸禎

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