経済・社会

2022.07.11 07:30

まるで偽装請負? アマゾンの「多重下請け」構造、宅配業界の闇


「荷物の配送が完了次第」の落とし穴、増え続ける配送ノルマ


「アマゾンデリバリープロバイダー」の報酬は“日給”と表現されていることが多い。ある求人の日給は19000円とされており、勤務時間は以下のように表記されていた。

・8:30~20:00位

・荷物の配送が完了次第

額面だけ見れば、おおよそ1800円の時給になる。しかしガソリン代は自費。この求人には記載がなかったが、報酬総額の20%ほどの、「ロイヤリティ」と銘打った手数料を請求されるケースが多い。経費を加味すれば、最低時給を割るような内容の契約もあるようだ。

注目したいのが「荷物の配送が完了次第」の表記。ドライバーは一日の配送ノルマが課される。この配送ノルマの荷量が増え続けているというのだ。プロバイダー各社で状況は異なるが、200個ほどのノルマになることも珍しくないという。

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Getty Images

「荷物の配送が完了次第」とされていたが、自分のノルマ分の配達が完了すると、荷量をさばききれない新人ドライバーへの応援要請が入ることもあり、結局はできるドライバーばかりが損をする。会社によっては朝礼の参加を促されることも。業務委託契約のはずが、時間の縛りや仕事のやり方は雇用に近い実態がある。先の「アマゾン配達員組合」は、こういった条件で働くドライバーを労働基準法の労働者として扱わないことは「偽装請負だ」、と主張してもいる。

ちなみに1個配達につき150~200円ほどの報酬を支払う会社もあり、仮に1日に200個運べるドライバーが1個150円の報酬で仕事をしたならば、収入は30000円になる。

それに対して個人事業主が仕事を直請けする「アマゾンフレックス」は、課せられるノルマが増えている状況には変わりないが、実際に個人の裁量により早く帰宅できるなど、業務委託契約としての働き方そのものという印象だ。

「下請け」ニーズが支える多重構造


ここまで見れば「なぜ同じ仕事なのに『アマゾンフレックス』を選ばないのか」と考える人もいるかもしれない。しかし「多少待遇が悪くても、安定して仕事が受託できる恩恵を受けたい」ニーズはなくならない。

そもそも兼業としてドライバーをしていて、その収入だけに頼る必要もないドライバーがいる様子も見られる。一度身を置いた“職場”からなんとなく離れられない人もいるだろう。

こうして多重下請け構造を甘んじて受け入れる層がいて、その労働力を使う企業がいる。荷主とて自社で配送をさばき切れないのだから、大きなネットワークを持った運送会社に頼らざるをえない。自然の流れに任せれば、どうしたって多重下請け構造はなくならないのだ。

5・6次下請けは「ホワイト物流」になり得るのか?


政府はここ数年「ホワイト物流」と名を打ち、長時間労働の緩和や標準運賃の告示など運送業界の労働環境整備に取り組んでいる。しかし労働環境悪化の原因にもなる、多重下請け構造についての本格的な取り組みはみられない。一方で建設業界に対しては、3次請けまでを推奨する取り組みがみられるため、運送業界においても声を挙げていく必要があるのかもしれない。

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3次・4次請けは各々が役割を持っていれば「悪」だとはいい切れないと筆者は考える。しかし、5・6次請けとなればさすがに考えものだ。

ドライバーは多重下請け構造のどの位置に身をおいているのか考えるべきだし、下請けを受け入れる事情があるならば、労働条件や環境に考慮し自分の身を守っていかなければならない。

荷主企業においては、自社の配送依頼がSDGsにのっとった「物流にとって持続可能なものなのか」「今後も滞ることなく商品を運んでもらえる対等な契約をしているのか」今一度、考えてみてほしい。

文=田中なお 編集=石井節子

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