ガン性腫瘍最大75%死滅、「超音波狙い撃ち治療」が拓く未来

新治療法「ヒストトリプシー」が注目されている(Wonderfulengineering)

「技術の進歩によって、今では多くの悪性腫瘍疾患に効果的な治療を行えるようになっているが、特定の部位に関してはまだ十分とはいえない」。

近年、我々が遭遇してきたこのような見解に対し、注目すべき打開策のひとつとして「ヒストトリプシー」と呼ばれる新しい治療法があらわれた。


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この新たな治療法を確立すべく、ミシガン大学の研究者たちはラットの体内から腫瘍を取り去るという実験を行った。ガン性の腫瘍に超音波を照射し、ほかの部位に影響を与えず狙い撃ちで組織をバラバラにして死滅させるという手法をとったのである。

さて、その結果はどうだっただろう。体内の肝腫瘍細胞は最大で75%が破壊され、この治療法の信頼性が認められたのである。

ミシガン大学のバイオメディカル・エンジニア、テージャスウィ・ウォーリカー氏によると、「ヒストトリプシーは現在行われている肝腫瘍の切除法の限界を超えた有望な手法で、非侵襲的な切除を、安全かつ効果的に行える」という。実験が見事に成功したことを受けて、研究者たちはイギリスやヨーロッパのがん患者を対象にの治療法を採用することにした。前例のない試みではあるものの、成功可能性はきわめて高いと見ている。

さらに、同大学の研究者たちは「この研究で得られた知見が、前臨床や臨床ヒストトリプシー研究をさらに活気づけ、最終的に肝臓がん患者は臨床治療としてヒストトリプシーを選べるようになるはずだと考えています」と付け加えた。

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腫瘍細胞を含む部位に超音波を当てると、そこにある微粒子が振動を引き起こす(Wonderfulengineering)

独自性が高いこの方法は、きわめて実用的な方法で機能する。

すなわち、腫瘍細胞を含む部位に超音波を当てると、そこにある微粒子が振動を引き起こす。振動が拡大すると同時に、超音波によって微粒子が崩壊し、腫瘍の粒子もバラバラになる。化学療法や放射線治療のように患者が大きな負担を感じることなく腫瘍細胞が消滅する、進歩的な治療法だ。


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このプロセス全体は「超音波キャビテーション」とも呼ばれている。超音波の焦点領域内で、粒子と結合した腫瘍細胞を破壊することで初めて空洞を生み出すのだ。研究者としてこの研究を支えてきたシュー・ゼン氏は、「腫瘍全体を攻撃しなくても、腫瘍を退縮させ、将来、転移する可能性を下げられるのです」と話している。

本記事は、英国のエンジニアたちが立ち上げたテクノロジー特化メディア「Wonderfulengineering.com」からの翻訳転載である。

翻訳=神原里枝 編集=石井節子

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