今年2月にクイーンズランド州の養豚場で初めて感染が報告された日本脳炎ウイルスは、その後ヒトにも感染が拡大した。ブタへの感染が確認された養豚場の数は、最初のウイルス検出から数週間のうちに、国内各地の50カ所以上に増加している。
オーストラリアの獣医学の専門家らによると、5月下旬までに国内の養豚場が被った損害額は、35万豪ドル(約3300万円)を超えたとみられている。同国保健省は3月4日、日本脳炎の流行について、「国家的影響を及ぼし得る」ものであると宣言した。
6月1日現在、同国で確認された日本脳炎ウイルスの感染者は40人以上、死者は5人となっている。世界保健機関(WHO)によると、同国で過去10年間に確認された日本脳炎による死者数は、15人だった。
日本脳炎ウイルスとは
日本脳炎を引き起こす日本脳炎ウイルスへの感染は、1871年に日本で初めて報告された。このウイルスは現在、少なくとも24カ国に常在していることが分かっている。
その他の多くのエマージング・ウイルス(新たに出現・再出現したウイルス)と同様、日本脳炎ウイルスは人獣共通感染症の原因となる。つまり、通常このウイルスを保有しているのは、主にヒト以外の動物ということだ。
これまで、このウイルスの感染が起きるのは東南アジアにほぼ限定されていた。毎年およそ6万8000人が感染しているとみられるが、感染者の大半は無症状であるため、実際の感染者数はこれを上回ると考えられる。
ウエストナイル・ウイルスやデングウイルスと同様、フラビウイルスである日本脳炎ウイルスは、主に蚊(コガタアカイエカ)が媒介する。保有宿主は鳥類で、サギやシラサギなど複数の鳥が増幅動物となっている。
だが、オーストラリアでの流行発生が示しているのは、家畜のブタや野ブタも同様に、血液中に大量のウイルスを保有している可能性がある(増幅動物である)ということだ。
そのほかにも、アヒル、ニワトリ、牛、馬、水牛、ヤギなどの家畜、犬などが日本脳炎ウイルスに感染する(これらは増幅動物とは考えられていない)。
日本脳炎と北米の養豚業
現在のところ最も差し迫った問題は、オーストラリアでの流行を抑制することだ。だが、政府関係者や業界の専門家らがより懸念しているのは、同国での日本脳炎ウイルスの流行が、その他の国での感染拡大につながることだ。
例えば、1999年にこのウイルスが侵入したとされている米国でも、南部の州を中心に多くの地域に野ブタが生息している。野生動物の間で日本脳炎ウイルスの感染が広がり始めれば、このウイルスを根絶することは不可能になるだろう。
そうなればもちろん、北米の養豚業にとっては新たな、そしてその後も続く脅威となる。ブタが日本脳炎ウイルスに感染すれば、養豚場の生産量の60~80%に影響が及ぶとされている。
オーストラリアの現状からみれば、(現在このウイルスの流行が確認されていない)北米やその他の地域もすべて、このウイルスに対する監視を強化する必要がある──だが、残念ながら米国などその他の地域に持ち込まれるのは、時間の問題といえるかもしれない。