2016年、NY留学中に報道局で働いていた中村多伽に深い悲しみが押し寄せた。大統領選の取材中、銃の誤射で子どもを亡くした母親の取材に携わったのだ。
「銃規制が進まぬまま、いまこの瞬間にも子どもを失った親がいると思うと悲しすぎるじゃないですか。カンボジアで学校をつくったときの経験も含めて思ったのは、NPOのようなボトムアップの活動も政府のようなトップダウンの意思決定も、いずれも効果的に仕組みが機能していない現状があるということ。そんな状況を少しでも減らすために、社会課題を解決する人を増やし、解決するリソースが集まる仕組みをつくりたいと思ってtalikiを立ち上げました」
talikiは若手起業家や社会課題解決ベンチャーのインキュベーション、民間企業のオープンイノベーション支援を行う会社として17年にスタートした。taliki自身もエンジェル投資家やVCから出資されているスタートアップであり、社会課題解決型のファンドをつくるまでには2年半ほどかかった。ファンドづくりのきっかけは、まわりの若手起業家が、明確な実績や経歴がなければ創業融資でさえ審査に落ちることを目の当たりにしていたことだ。
「次の未来をつくるチャレンジャーは、みんなで応援しないと種が育たない。若手起業家が事業をつくれることを証明しようと、当時は与信の仕組みづくりなど試行錯誤しました」
最終的には自分たちがお金を集めて運用する方法に落ち着いた。従来のVCの投資方法では速いスピードで成長することが求められてしまう。そこで、弁護士に協力を得ながらプロフィットシェア(株式を取得せず将来的な利益を一部シェアする投資手法)も使って、ほかのシード・アーリー期の若手起業家を資金面で支援するtalikiファンドを立ち上げた。集めた金額は3億円。20年末に私募ファンドとして募り、21年に8400万円を6社に出資している。
シード・アーリー期は市場ニーズの検証が完了しているわけでもない不安定な時期でもある。talikiの投資判断のポイントは3つ。1つ目は社会課題の解決を目的に事業を行っていること、2つ目は課題に対する専門性の高さや解決のアプローチに独自性があること、3つ目は持続可能性と課題当事者へのインパクトを高めるために事業と収益の拡大を目指していること。すべてに当てはまる創業まもない会社や、新規事業を立ち上げアクセルを踏んでいきたい会社に対して、1社あたり500万円から3000万円ほどの出資を行っている。
talikiファンドの出資先は食に携わる企業が多く名を連ねる。注力してフード業界のサプライチェーンのひずみに取り組んでいく狙いだろうか。
「今回はたまたま食分野に取り組む出資先が多くなりましたが、実は彼らがそれぞれやりたいことは違うんです」
例えば、ビーガン惣菜の定期宅配に取り組むブイクックは環境負荷を減らすこと、離乳食・宅食を販売するKazamidoriは子育て中の親の負担を減らして幼児教育に割けるリソースを増やすこと、コークッキングでは余った食事をユーザーが安価に購入できるサービス「TABETE」を展開して食品ロスを防ぐことが目的で、食をきっかけとしながらもそれぞれ目指す方向は違っている。
「明日生きることがつらい人を減らしたい、という思いが原体験なので、ジャンルを絞らずに取り組んでいきたいです」