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世界120カ国以上で約12万1,000社にCRM(顧客関係管理)プラットフォームを提供するHubSpotが創業15周年を迎えた。同社共同創業者兼最高技術責任者(CTO)のダーメッシュ・シャアが、これまでの15年間での学びを15の教訓として語ってくれた。


19世紀末に誕生した「近代マーケティング」の主軸は、製品中心から顧客へ、さらには関係性や絆へと移り、その複雑な環境のなかで多様性と向き合う新たな航海技術が求められるようになる。暗黙知だったCRM(顧客関係管理)の概念が明文化され、広く認識され始めたのは1990年代後半のことだ。

2004年、米国マサチューセッツ工科大学・大学院(MIT)の同窓、ブライアン・ハリガンとダーメッシュ・シャアは、消費者のある行動変容に着目する。過剰なアピールで訴求する広告に消費者はうんざりし、目を背けたがっているのではないか。シャアは06年に大学院を修了し、二人は顧客との理想的な関係構築方法を模索する、マーケティングの新しい航海技術の社会実装に挑んだ。HubSpotの誕生だ。

HubSpotは「相手から価値を受け取る前に自社から価値を提供することで顧客と長期的な関係を築き、事業を成長させる」という考え方を「インバウンド」と名付け、その思想をまずは企業のマーケティング活動において実践するソフトウェアの提供に着手。

それから15年後、現在では世界に約5,000人の社員を擁し、ニューヨーク証券取引所で時価総額300億ドルを超える上場企業へと成長を遂げた。同社のツールもマーケティング部門に加えて営業やカスタマーサービス部門も支援するCRMプラットフォームに進化し、120カ国、12万社超の企業から高評価と信頼を獲得している。16年には非英語圏では世界初となる日本での事業を開始。5年間で有料顧客数は世界市場の2倍以上の速度で成長して約15倍に急増し、従業員数は約5倍になった。さらに25年までに同従業員数を現在の約4倍(300人規模)に増員することを公表している。

ダイバーシティの真の意義とは


また17年よりHubSpotは、毎年ダイバーシティ・レポートを公開しており、21年のレポートでは、米国拠点の採用人数に占めるBIPOC(black, indigenous, and people of color)の割合は17年レポート公開時の約20%から、42.9%と2倍以上に増えている。

HubSpotのダイバーシティへの進達は、同社の成長や日本市場での成功と無関係ではない。21年6月、HubSpotは創業15年を迎えた。その間の同社の躍進と発展は前述の通り。その創立記念日に現在は同社のCTOを務めるシャアは、「HubSpotの15年間で学んだ、ささやかな15の教訓」について、従業員やステークホルダーに向けて語りかけた。その思いつくまま、順不同で語られた示唆に富んだ「ささやかな教訓」の一部をここでも分かち合いたい。


「HubSpotの15年間で学んだ、ささやかな15の教訓」

──ダーメッシュ・シャア HubSpot 共同創業者 兼 最高技術責任者(CTO)

 1. 早い段階で多様性のあるチームを構築する。
 2. 「顧客第一」の考え方を浸透させ、醸成する仕組みを整備する。
 3. 優れたアイデアは必要だが、それだけでは十分ではない。適切に実行してはじめて
     事業を軌道に乗せることができる。

 4. 企業文化の自然な浸透を待つのではなく、なるべく早い時期に明文化する。
 5. 透明性を上げるのは怖い… しかし劇的な効果をもたらす。
 6. 企業が破綻する原因は、共同創業者の対立が最も多い。
 7. 新たなカテゴリーを生み出すことは楽しいが、必ずしも必要とは限らない。
 8. チームを信じる。
 9. 自分自身とチームに賢明なリスクを取らせる。
10. 合理的に気前良く。
11. 皮肉屋とは距離を置こう、エネルギーを吸い取る有毒な吸血鬼だから。
12. 長期的な成功はシステム思考ができるメンバーによって定義される。
13. ほとんどのスキルは企業レベルでも個人レベルでも習得できる。
14. いつでも、どこにいても、できるだけ多くのことを学び続ける。
15. ベクトルを統一する。

(参考: https://blog.hubspot.jp/hubSpot-15th-anniversary

同氏は15の教訓の1番目、「早い段階で多様性のあるチームを構築する」について述べた。彼の記憶は一足飛びに、大学院を修了した創業時へとさかのぼる。「仕事の失敗はほかにもたくさんあるが、多様性のあるチーム構築を初期から実現しなかったことは最も後悔している過ちです。当時を振り返ってみても、多様性には意識が及んでいませんでした」

私たちは往々にして、同じ考え方の「仲間」だけでチームを構築しがちだが、それはやがて企業文化の負債になる。財務上の負債と同じようにいずれそのツケを払わなければならない。ただし、財務上の負債は小切手で返済できるが、企業文化における負債の完済は本当に難しいと同氏は言う。

「この負債は抱えないようにしましょう。未来の自分から感謝されるはず」

従来の企業の人事では、採用候補者が企業文化にかなう人材であるかが、ひとつの採用基準になっている。そのため同じ性質や理念の人材の採用が進む。結果、異文化に対して排他的で不寛容な企業文化が培われてしまう。HubSpotは従来の採用プロセスを見直し、企業文化を健全に進化させる多様性や人材の混成に着目した。そのプロセスは、航海日誌のようにダイバーシティ・レポートにつづられている。

約50年前にピーター・ドラッカーは著作『マネジメント』で「企業は一人の人間の延長である」と記した。HubSpotという企業をかたちづくる人材。その多様性も同社成長の推進力といっていい。シャアはそれを自身の失敗から学んだ。ダイバーシティは単なるお題目ではなく、HubSpotの企業文化を育み、企業が成長するために不可欠な、経験に基づく「教訓」なのだ。

一方、健全な企業文化は健全な環境を育む。企業レビューサイト「Glassdoor」では、2021年働きたい会社のトップ5にランクインしている。これもダイバーシティに真摯に取り組んだ結果であり、同時にHubSpotが大切にする価値基準のひとつである「透明性」がもたらした栄誉だ。

透明性を高めることにひるまない


「透明性の向上には不安を禁じえないが、それは劇的な効果をもたらす」

シャアは15の教訓の5番目にこの言葉を挙げる。不安を感じるのは、信頼を裏切られるリスクが潜んでいるからだ。それでも社内で「透明性」を高めることには意味がある。HubSpotは、創業初日からチーム全員があらゆる情報の共有を進めた。採用に関しても、最高の人材は「透明性」を重要視する傾向が強く、近年その度合いは高まる一方だ。ダイバーシティと透明性は、同社が求める人材確保のポイントであり、そこに共感する人々は少なくない。

そして14番目に彼が伝える教訓は「いつでも、どこにいても、できるだけ多くのことを学び続ける」ことだ。知ったかぶり(know-it-all)ではなく、知りたがり(learn-it-all)になろう。具体的なアクションとしては、学習支援の一環として始めた「Free Book Program」がある。HubSpotの従業員が学びや成長に役立つ書籍を購入し、その代金を会社が負担する制度だ。「これまでに導入した施策でも特に気に入っている」とシャアは振り返る。

HubSpotが提唱するインバウンド手法では、ニーズに合わせた価値あるコンテンツや体験の提供が重要となる。その発想の源泉であるダーメッシュ・シャアの率直な進言に、同社の発展と従業員に愛される理由が浮き彫りにされていく。

「皮肉屋とは距離を置こう。一緒にいて幸せを感じられる人たちと働きましょう。人生は短いのですから」


HubSpot
https://www.hubspot.jp

HubSpotのカルチャーコード
https://blog.hubspot.jp/the-hubspot-culture-code-creating-a-company-we-love

ダーメッシュ・シャア◎HubSpot共同創業者 兼 最高技術責任者(CTO)。60社以上のスタートアップに投資している投資家でもある。また登録者70万人以上を抱える人気起業家向けブログ「OnStartups.com」の著者であり、起業論とマーケティングに関する講演を多数。

Promoted by HubSpot / text by Kazuo Hashiba / edit by Akio Takashiro

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