「うまくいかないという声もあった。ただ、米国の家庭でコーヒーが飲まれる量は当社調べで年間約512億杯もある。そのうち、42%の約215億杯がシングルカップ抽出型のコーヒーを飲んでいる。愛飲者の中には、Kカップを好まない人もいれば、香りを楽しむ人もいるはずだと、希望的観測でやっていました」
10億ドル規模(約1096億円)のシングルカップ・マーケットに食い込めば勝算はあると東田は踏む。大手コーヒーメーカーや小売店、大手カフェチェーンがしのぎを削る巨大マーケットに立ち向かうには、自社ブランドでは勝負は厳しい。むしろ、既存のコーヒーブランドのラインアップにドリップパックを組み込む受託生産販売で、東田は打って出る。
人脈も信用もない苦戦の連続 アナログな売り込みで勝負
事業は、東田の狙い通りには進まなかった。営業の売り込みすら断られ、出だしで苦戦を強いられる。水の販売の時と同じ苦しい状況だった。
「チャンスの国、米国ならば、良い商品さえあれば売れると思っていたんですが、まったく売れない。もがいていました」
日本以上に人脈を重視する米ビジネスでは、人の紹介がなければ、商談の約束すら入れられない現実が待っていた。
「アナログなやり方しかなかった。流通業界に人脈を持つ優秀な人材を採用しようにも、無名の小さな会社には誰も来てくれない。それならば我々で人脈を作るしかない。毎日営業をかけながら、あらゆる展示会に出て、我々の商品について知ってもらい、少しずつ営業先を開拓していった。相手先を訪問して、お客さんの目の前でドリップパックコーヒーを淹れて試飲してもらう。ワンダフル、グレートっていう好反応を受けるんですけど、待てども注文は入らない。信用がないため、誰にも相手にされなかった」
持続可能な時代が追い風に エコな製品として一躍注目
事業撤退という選択肢は考えていなかったという東田は、2017年、営業に駆け回りながらも、次なる一手を打つ。
カリフォルニア州の主要工場の信用を得るため、米国食品強化安全法に対応した食品安全・品質管理規格(SQFレベル2)の認証を1年がかりで取得する。さらに、多様なマーケット層に合わせ、オーガニック、フェアトレード、コーシャー(ユダヤ教聖職者が認めた食品)、ハラル(イスラム教の戒律に則って調理・製造された製品)の認証も相次いで取得する。
東田の読みは当たった。SQFの認証が工場に付いたことで、会社への風向きが変わる。時を同じくして、プラスチック製のKカップが年間130億杯ものごみを排出するという数字があり、海洋汚染の原因になっていると問題視される。また、世界的にプラスチック製容器の販売・使用廃止を求める声が強まる時期とも重なった。再生可能な素材を使用したNuZeeのドリップパックコーヒーが、環境に優しい製品として一躍注目を浴びるのだ。