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2021.03.16

企業の不正を見抜く「匠」、デジタルフォレンジックスとは?──経営の中枢にAIをどう活用できるのか

企業を取り巻く事業環境は、グローバル化、技術革新、新興国の台頭などにより年々複雑化しており、求められるコーポレートガバナンスも刻々と変化している。

しかし、残念ながら企業における不正取引や品質偽装などの不正・不祥事は後をたたない。不況になるとそうした事案が増えてしまう傾向にあり、今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、不正・不祥事が起こりやすい環境が整ってしまった。

このような状況において企業に求められるのは、不正・不祥事が発生した際に、速やかに原因を究明し、対応策を講じ、いかに予防をするかを明確に説明することだ。これらの原因究明の際に活躍するのが「フォレンジックス」(forensics)である。

特に、電子情報の解析により事実解明を行うデジタルフォレンジックスでは、AI(人工知能)を活用することで原因究明の高速化・高度化も実現するという。

最近のフォレンジックスのトレンドや、企業に求められる取り組みなどについて、PwCアドバイザリー合同会社 パートナーでデジタルフォレンジックスを専門とする池田雄一氏と、PwC Japanグループ データ&アナリティクス/AI Labリーダーの中山裕之氏が語った。

なぜ、COVID-19の感染拡大で企業の不正が増えるのか


中山:池田さんは、PwCアドバイザリーのフォレンジックチームで、デジタルフォレンジックスを専門にしています。正直、一般的にはあまりなじみのない分野かと思います。そもそもフォレンジックとは何なのでしょうか?

池田:フォレンジックスは、米国発祥の概念で、何か事件が起きた際に、法執行機関が捜査に利用したり法廷に証拠を提出したりする方法論を指します。フォレンジックサイエンス(法科学)と呼ばれ、その応用分野の一つであるデジタルフォレンジックスは、日本では2005年ぐらいからデジタル化の普及により徐々に注目されるようになってきました。

中山:現在、COVID-19の感染拡大が長期化しています。フォレンジックスをとりまく状況はどう変化しているのでしょうか。

池田:COVID-19により景気が悪化している業界もあるかと思います。COVID-19による打撃を受けたことで、企業が売上や収益の減少を隠蔽するよう会計上の細工をしたり、生活に困った従業員が会社のお金を横領したりといった不正が起こりやすい状況になっていることは考えられます。

このような状況に加え、COVID-19によって内部監査担当者が出張に行けないため、証憑の原本を確認するといった運用が難しくなり、不正を検知しにくくもなっています。特に海外の現地法人ではプロキュアメント(購買・調達)の不正が起きやすいのですが、内部監査がリモートでしかできず、現地での調査ができないため、リスクも高まります。リスクを回避するためには数字などのデータをどのように見ていくかが非常に重要になります。


PwCアドバイザリー 合同会社 パートナー 池田 雄一

中山
:こうした環境では電子情報を解析するデジタルフォレンジックスがより重要になるわけですね。フォレンジック調査が活用されるような企業の不正事案にはどのようなものがありますか。

池田:日本企業でよく起きるのが会計不正、いわゆる粉飾決算です。また、贈収賄や価格カルテルなども時折発生しています。また件数は多くありませんが、最近のトレンドとして品質偽装もあります。検査データを改ざんしたり、実際に検査をしていないにもかかわらず検査をしたと表示をしたりといった不正が相次いでいます。

データ量の急速な増加によりデジタルフォレンジックスが主流に


中山:池田さんはデジタルフォレンジックスが専門ですが、デジタルではない、従来のフォレンジック調査はどのように行っていたのでしょうか。

池田:私がこの分野に入ってきたのが2005年ぐらいです。デジタルフォレンジックスという概念が日本で出始めたのがちょうどそのころです。

それまでフォレンジック調査では、紙ベースの調査が主流でした。企業が保持する帳票や証憑類、ファックス、社員のノート、手帳などを人海戦術で調査していました。ただし、紙の場合はある程度量が限られていたので、人手を増やせば何とかなっていたのです。

大きな変化は、企業が業務にEメールやチャットを導入し、社員が携帯電話やスマートフォンを使い始めたことによるデータ量の急激な増加です。1ギガのデータをテキストファイルに落として印刷すると、トラック1台分ぐらいになってしまいます。人間が一つ一つチェックするのは不可能です。そこでこれらを分析するツールや技術が発展してきました。


出張費分析 イメージ(サンプル)

中山:デジタルフォレンジックスは、具体的にどのような方法で調査を行うのでしょうか。

池田:初期のころは、キーワード検索が中心でした。例えば、特定のプロジェクトで不正事案が発生した場合、まずはプロジェクト名や関係者名などが含まれているデータを抽出して母集団を設定します。そこからさらに特定のキーワードで検索し、不正に関するデータを探していきます。例えば、「読後破棄してください」と書かれているメール、特定の業者やサードパーティーが関わっているやりとりなどです。

ただし、キーワード検索もすでに限界がきています。というのも、キーワードベースの検知ツールはたくさん登場していますが、それによってヒットするデータは有益な証拠にならないようなものがほとんどというのが現実です。また、検出された膨大な量のデータを一体誰がどのように見て判断するのか、という問題に直面しています。

膨大な量の画像を高速で解析できる独自のツールを開発


中山:キーワード検索だけでは関係のないデータも検索してしまい、作業の劇的な効率化につながらないのですね。このような状況を打破するために、デジタルフォレンジックスはどんな進化をしているのでしょうか。

池田:5、6年前ぐらいから注目されているのが、AIの機械学習の活用です。

キーワード検索では、大量の「関係のないデータ」まで抽出されてしまいます。AIではまず、母集団データからサンプルを取ります。そのサンプルを、案件に関してもっとも知見があったり、調査の中心的な役割を果たしていたりするSME(Subject Matter Expert)と呼ばれる専門家が見ていくのです。そこで、関係性の有無を判断し、その判断基準をAIが機械学習することでサンプル以外のデータに関しても判断できるようになります。

AIが選んだデータが正解かどうか人間によるチェックを繰り返していくことで、判断基準がさらに精緻化されていきます。

中山:単なる自然言語処理だけでなく、不正を見抜く「匠」の視点をAIに学習させ、より精度の高い絞り込みを可能にするということですね。もう少し具体的にその内容を教えてください。

池田:表計算ソフトや文書作成ソフトなど、ファイルごとの分類はもちろんのこと、文章やメールの中に含まれているトピックやコンセプトをAIが自動的に解析します。例えば、この文書の固まりは、ある特定のプロジェクトに関して話している。さらにこのあたりは、プロジェクトの中でも契約関係についてのものだ、といったように詳細に分類できます。

中山:PwCは早くからAIを活用したデジタルフォレンジックスに取り組んできましたが、最近新たに実施している取り組みはありますか。

池田:「Forensic Image Analyzer(フォレンジック・イメージ・アナライザー:フォレンジック画像分析)」というソリューションを開発しました。昨今、スマートフォンの普及にともない、会議のホワイトボードや業務書類などをメモ代わりに写真で保存することが一般的になり、ビジネスの現場でも利用される機会が増えています。従来は、これらの大量の画像データからフォレンジックスの対象となるものを検出する技術が確立されていませんでした。そこでPwCアドバイザリーでは独自に、AIを使った画像の解析ツールを開発しました。数十万枚もの画像データの中から関連する画像を数時間で判別することが可能で、その精度も98%以上と、かなり正確です。


PwC Japanグループ データアナリティクス AI Lab リーダー 中山 裕之

AIを活用し、潜在的な不正のリスクを検知


中山:有事対応では、対応スピードとその内容によっては企業ブランドが大きく損なわれます。しかしながら、予算・時間・人員は無限ではなく、制約がある中で調査をしなければなりません。昨今の爆発的なデータの増大を考えると、AIなどのデジタルテクノロジーなしでは調査に莫大なコストと時間がかかってしまいます。一方で、これまでは不正案件が発生してからそれを解明する際にデジタルフォレンジックスを活用してきましたが、これからは不正の早期発見や防止にAIを活用することもできるのではないでしょうか。

池田:大いに期待できます。すでにPwCでも不正兆候検知データ分析である「Potential Risk Monitor(ポテンシャル・リスク・モニター)」というサービスを提供しています。これは、不正リスクの高い、購買、販売、経費の3つの観点から、想定されるさまざまなシナリオ、統計解析や検証モジュールなどをもとにデータ分析を行い、潜在的な不正リスクを検知するものです。

このほかにも、AIが会社の中を流れている数字やコミュニケーションをモニタリングすることで、リスクのありそうな事案などを事前に把握することが可能になります。全方位的に不正を検知するのは難しいところですが、会社にとって重大なインシデントに発展するような不正は限られていますので、これらに特化した分析の仕組みを作っていくことで、精度の高い検出もできるようになるでしょう。

中山:ちなみにPwCアドバイザリーのデジタルフォレンジックスチームは、どのような特長を持っているのでしょうか。

池田:私たちの特徴的なところは、これまで培ってきたフォレンジックスの経験や知識をITやAIの技術と組み合わせ、実績に基づいた価値の高いツールやソリューションを提供できることです。

それが実現できるのは、私たちのチームにはフォレンジックスの専門家だけでなく、データサイエンティスト、アプリケーションエンジニアなど広範囲にわたるスキルを有する専門家がいるからです。これからもチームで力を合わせて、今までにないようなデジタルフォレンジックス関連のツールや価値のあるソリューションを生み出し、日本企業を支援していきたいと考えています。

中山:冒頭に述べたようにCOVID-19による不況で、不正や不祥事が起きやすい状況になっています。企業のリスク管理の観点からも、AIを活用した不正兆候検知などは、今すぐにでも着手すべきタイミングではないかと考えます。この先も何事もないことが一番ですが、インシデントがビジネス継続の成否に直結する社会において、何かあったときに迅速かつ誠実に対応するためにも、AIを活用したフォレンジックスを導入すべき時代になったと言えますね。


池田 雄一
PwCアドバイザリー 合同会社
パートナー

中山 裕之
PwC Japanグループ
データアナリティクス AI Lab リーダー


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