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(右より)東京大学大学院教授 松尾豊、AI & CO代表 野口竜司、PwCコンサルティング マネージングディレクター 馬渕邦美

新型コロナウイルスなどの影響によりビジネス環境が大きく変化する中、企業はデジタルテクノロジーを利用した経営戦略のパラダイムシフトが求められる。今、そのテクノロジー活用の最先端にあるのが、AI(人工知能)やデータ活用を経営の中枢に取り入れる「AI経営」だ。

今後、経営者にはAI経営の本質を理解し、経営戦略を高速化させることが求められる。日本企業がAI経営に成功するためのポイントはどこにあるのか。PwC Japan合同会社 マネージングディレクターの馬渕邦美氏がファシリテーターとなり、AI研究の第一人者、東京大学大学院教授の松尾豊氏と、『文系AI人材になる』などの著書もあり、AI人材の育成などに取り組む、AI & CO 代表の野口竜司氏が意見を交換し合った。


AI人材を育てるか否かで、企業力に差が出る


馬渕:野口さんは、「文系AI人材」として、AIビジネス推進や企業のAIネイティブ化に力を入れておられますが、どのような目的があるのでしょうか。

野口:国内でも、大手ECサイトなど先進的な企業は、データやテクノロジー、AIの活用を推進しようとしています。私もそのお手伝いとしてプロジェクトに参加することも多いのですが、その実現のために大事なのが、AI人材の育成だと考えています。データサイエンティストやデータエンジニアを採用するだけでなく非理系AI人材、すなわち「文系AI人材」と私が呼んでいるような人材を育てることも大切です。

馬渕:文系AI人材がAIプロジェクトやプロジェクトマネジャー(プロマネ)をやるのはハードルが高そうですが、育成期間はどれくらい必要で、どういう仕組みになっているのでしょうか。

野口:企業によって異なりますが、プロジェクト推進経験があるような人であれば、2、3カ月でできるようになります。ある企業では、最初に基礎教育として座学の講座、その後は職場内訓練(OJT)を行います。プロジェクトに「リスナー」として入ってもらって、とにかくわからない言葉、わからない構造などをはっきりさせて、それを持ち帰って勉強するという仕組みです。

松尾:リスナーで入れるというのは面白い。そういう経験が大事だと思います。

野口:全社員に向けたAI基礎講座を行う企業もあります。法務、コールセンター、営業、マーケティングなど、多種多様な職種の人に講座を受けてもらい、社内のAI知識のペースアップを図っていくわけです。

馬渕:それができる企業とできない企業で差が出そうですね。AI人材を育てていこうとする社内のコンセンサスやカルチャーが大切だと思います。

野口:データがあるという前提も重要です。ECサイトの場合、もともとデータが整備されているのは強みになります。

馬渕:そこが難しいところです。「鶏が先か卵が先か」ではないですが、データはないけれども、データドリブン(データ分析による業務推進)経営をしなければいけないと、堂々巡りになっている企業もあります。

松尾:日本の企業の場合、もともと、情報を扱っている会社であっても、未だに業務フローに人間が多く介在しているところがあります。いわば、宝の持ち腐れです。そこに、さらに必要なデータが取れる技術が組み合わされると強いですね。

野口:さらに、こういうサービス設計をすればこういうデータが取れる、というデータを取りに行く設計も大事です。そのためには、AIを作るだけの専門性だけではだめで、ユーザーとの関係をどうつくり、データをどう循環させるか、それによってどのようにモデルを高度化してサービスを供給するかを考えることが重要になります。

20代はプログラミング必須、40代は事業作り、60代は……


松尾:「文系AI人材」は企業に必要不可欠だと考えられます。というのも、エンジニアがビジネスのことを学ぼうとしても限界があるからです。逆に文系の人でもロジカルな人はたくさんいます。ポイントをつかめば、「なるほど、こういうことなのか。ならば、こういうところに使えそうだ」と理解することができます。



野口:ITが登場したときに、これを使って大きな経営をした人は理系の方々だけではありませんでした。それがもう一度再現されるようなものですね。

松尾: 2年ぐらい前から、風向きも変わってきたと感じています。かつてスタートアップ企業は、特定のテクノロジーだけで勝負する、といったところが多かったのですが、最近では、コンサル出身で幅広くテクノロジーも勉強した起業家が増えていて活躍しています。

野口:20代から60代まで、企業の中にいる人材にはテクノロジー面でどのような期待をしていますか。

松尾:20代の人にはとにかくプログラミングしろ、つべこべ言わずにコードを書けと言いたいですね。40代の人には技術のことを理解して、自分で事業を作ってほしい。また、60代の人は「テクノロジーのことはわからない」と諦めないで、ポイントをちゃんとつかんでもらわなければなりません。

馬渕:プログラミングなどは若手社員全員にやらせるくらいでもいいと思います。私は中学生のころ、独学でプログラミングをしていました。そのベースがあるので、インターネットなど新たなテクノロジーの波が来たときでも対応できたのだと思います。

野口:触ったことがあるという経験が大事ですよね。その道のプロにならなくても、こういうものだと理解しているだけで、ずいぶん違います。例えば、経済の専門家のような人が少しでもAIの感触がつかめたら、「経済×AI」という、強いかけ算をすることができます。

松尾:依然として、AIという名の、一つのプログラムがあると誤解している人もいますね。びっくりさせられます。

野口:AIがより使いやすくなっていく時代になると、原理原則がわからない人が量産されてしまう可能性もあります。



企業がAI経営に成功するためのポイント


馬渕:先ほど松尾先生からお話があったように、社内にAIを理解できる、多様な年代層がいるということが、日本企業を変えていくきっかけになりそうです。

松尾:60代の人なら60代なりの納得の仕方があります。例えばインターネットのことを表面的にいくら説明しても関心を示さないだけれど、結局これは情報がつながるっていうことだと説明をすると、とたんにわかってもらえることもあります。他の年代の人材についても、ビジネスを作り出すという観点では、必ずしも開発チームをリードできるプロマネのような知見がなくてもいいのです。外部のスタートアップに発注できるくらいでいい。そのレベルであれば人材育成も時間はかからないと思います。

馬渕:そこでまた、データがないからできないという話になるのは間違いですね。どうやって企業を成長させるかというビジョンを持つところから入っていくことが大切です。そういうビジョニングができる人材を、40代ぐらいで育てていかないといけません。

野口:大きなビジョンがないとAIの成果が小ぶりになってしまいます。ビジョンを描き、このお題だったらAIでできると、実験を繰り返しながら前に進んでいく。その行き来が大切だと思います。

松尾:将棋のようなものですよね。この手に対して相手はこう打ってきて、とストーリーを描く。もちろん、コストと効果の兼ね合いもあるので、いきなり大きな絵を書いて実現することはできませんが、どこから入ってどう広げていくかを考えることが重要です。

野口:短期のPL(損益計算書)のようにデータを見るのではなく、会社の資産としてどのようにデータに先行投資して、BS(賃借対照表)としてどう積み上げ、それを最終的な利益に回すという感覚が必要です。それがないと、成功しないプロジェクトがたくさん生まれてしまうでしょう。

松尾:AIを入れるにしても、どういう用途で使うのか、その前提としてビジネスの現場での課題感を調べ分析する必要があり、その力を磨くことが大切です。それが事業創造力になるのではないでしょうか。みんなが使えるテクノロジーは差別化になりません。

野口:松尾先生からテクノロジーが差別化にならないと言われると衝撃です。

馬渕:そういう意味ではテクノロジーを使いこなして、いかにビジネスに転換していくのかという応用フェーズに来ていると言えそうですね。

松尾:まさに今、AIを日本の企業が経営に導入できるかどうか、思考のチェンジができるかどうかというタイミングになっています。このチャンスをものにできるかどうかが10年後、20年後の成長や生き残りに直結すると思います。

野口:私も、AI人材をいかに量産するかにトライしたいですね。「×AI」で、いろいろなものをかけ算にして価値を創造できる人材をたくさん作っていきたいと考えています。



松尾豊
東京大学大学院工学系研究科 人工物工学研究センター/技術経営戦略学専攻 教授
日本ディープラーニング協会理事長

野口竜司
AI & CO株式会社 代表

ファシリテーター
馬渕邦美
PwC Japan合同会社 マネージング ディレクター エクスペリエンス センター


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