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2021.03.09 16:00

迷いはゼロ、満足度は1000%。電通から世界を変えるスタートアップへ転じた挑戦者

株式会社TBM 執行役員CMO(最高マーケティング責任者)笹木 隆之

株式会社TBM 執行役員CMO(最高マーケティング責任者)笹木 隆之

広告代理店最大手の電通から、新素材メーカーのスタートアップ「TBM」へと転身した、ユニークなキャリアを持つ男がいる。

その挑戦者の名は笹木隆之。スタートアップ支援事業の支援先だったTBMに身を転じた理由、それは石灰石を主原料とした新素材「LIMEX(ライメックス)」だった。

LIMEXは、プラスチックと紙の代替素材として資源枯渇に直面する地球を救う画期的な製品だ。笹木はLIMEXで世界を変えるチャレンジを続けている。

壮大な挑戦に踏み出した笹木が、LIMEXに賭けた想いを語る。


給与より働く意義を優先した転職。予想し得ない領域へと仕事が広がった


前職の電通では、社内ベンチャーのような組織として立ち上がった「未来創造グループ」に所属していました。新規事業や商品開発、組織変革など企業の経営と事業活動をアイデアで活性化するチームです。そこではスタートアップ支援も手がけ、そのときの支援先の一つがTBMだったのです。

電通在職中に、慶應義塾大学SFCの政策・メディア研究科の博士課程に通っていました。当時30歳で、会社でプロジェクトの中核を担っていながら大学に通い続けた理由は2つあります。1つは社会にインパクトを与えるなら自分自身の専門性が必要だと思ったこと。もう1つが、官や民だけでなく、これまで自分に大きな刺激を与えてくれたアカデミアの方々が世の中を動かす力を信じていて、その世界に近づく時間を、人生のそのタイミングで持ちたかったことです。大学で学び、考えているうちに、TBMの技術やチャレンジに惹かれるところがあり、転職を決意しました。



大企業を辞めることへの迷いや不安はありませんでした。ものづくりの歴史を振り返ると、かつての日本は技術立国と呼ばれ、それを原動力として高度経済成長を遂げました。当時は過酷な環境だったはずですが、先陣がチャレンジしてくれたからこそ、今の日本があると言えるでしょう。

昔の人から見たら、今のほうがよほどチャレンジしやすい環境なはず──そう思うと、TBMという新素材のものづくりスタートアップに挑戦する意義を感じました。実際、給与は減ったのですが、給与よりもここで働く意義を優先した形です。


Photography: GION

今の満足度は1000%。120%、130%というレベル感ではありません。

2016年にコミュニケーション担当の執行役員として入社し、その後CMO(最高マーケティング責任者)に就任しました。入社当初は専門の組織も専任者もないなかで、前職の経験を活かして広報、ブランディング、Webなどのコミュニケーション領域にほぼゼロから取り組み、その後、サステナビリティ、採用・組織開発、アライアンス、BtoC向けのEC事業、グループ会社の取締役と予想しなかった領域に仕事が広がりました。

自分にとってはミラクルです。会社として目指すビジョンや方向性を自分なりにしっかり認識して、自分が果たすべき機能や役割を果たしてきた結果ですが、社内では「こいつは何屋なんだ」と思われているかもしれません(笑)。

サステナビリティ領域で世界トッププレーヤーへ。波は高いほど大きなイノベーションが生まれる




キャリア形成とか、次はどうする、みたいなことは微塵も考えていません。TBMをグループとして大きくしていくこと、サステナビリティの領域でグローバルのトッププレーヤーになることが自分の目標でもあります。

メイン商材のLIMEXは、石灰石を原料とした新素材で、プラスチックと紙の代替素材として、石油、森林、水といった資源の枯渇に直面する地球の課題解決につながる画期的な製品をつくれます。世界40か国で特許を取得し、UNIDO(国際連合工業開発機構)の「サステナブル技術普及プラットフォーム」にも登録されています。

また、世界がサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現を目指すなかでは、資源を循環させることも必要です。再生プラスチックを資源化した素材開発にも取り組み始めていますし、直近では、個人に資源循環のサイクルに参加してもらうために、使用済みプラスチック製品などの回収を促進するアプリをリリースしました。やっていることは、もはや素材メーカーの域を超えています。


経済産業省の補助金に採択され、2021年2月5日に宮城県多賀城市に竣工する「TBM多賀城工場」

2020年に、ミッションやビジョンなどの企業理念体系を「TBM Compass」と名付けて、再定義しました。

「進みたい未来へ、橋を架ける」

「過去を活かして未来を創る。100年後でも持続可能な循環型イノベーション。」

100%正しいと信じられる言葉ばかり。何一つ間違っていません。ただし、それを正しく進めるには様々なハードルや荒波があります。

スタートアップは、大企業と比べると様々な点で環境が整っていないと思います。例えば、当初は開発環境も十分ではなく、研究開発者が自ら大学や企業と交渉し、研究施設を借りることもありました。人によっては、そこまではできない、無理だと思うでしょう。

でも、目指すゴールのためには不慣れなことも必要だと理解し、やり遂げる──そう思える強いスピリットが、スタートアップには不可欠です。

前職の電通は社員約6000人で、言ってみれば私は6000分の1の存在に過ぎませんでした。今は200分の1です。入社当初は60~70人分の1でした。一人が会社に与える影響は、大企業とは桁違いです。自分自身の成長が加速され、それが会社の成長とも重なります。その感覚は、スタートアップならではのものです。

TBMは「Same Boat」という言葉を大切にしています。メンバーの大半は中途採用で入社します。終身雇用の日本型の大企業は、均質な集団が形成されていきますが、ここは本当に多様性に富み、様々な経験や判断軸を持って入社してきます。

よく「良き化学反応」という言葉で表しますが、現実にはそのような美しい化学反応はなかなか起きません。一人ひとり違って当たり前。そのみんなを一つの船に乗せて進んでいきます。

みんなで漕がないと沈むし、一生懸命漕げば遠くの海に行けます。打ち付ける波は高いほど大きなイノベーションが生まれます。そんな大きな波を乗り越えるチャレンジをし続けたいと思います。




笹木 隆之◎株式会社TBM 執行役員CMO(最高マーケティング責任者)

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