──米国はなぜこれほど分断しているのでしょう?
かなり昔から、こうなると予測していた歴史家もいる。都会と地方、労働者階級とホワイトカラー。経済格差の大きさを考えると、分断は必然だった。この格差は、テック大手によるデジタルテクノロジーで加速した。
だが、デジタル格差の解消が融和のための解決策ではない。誰もがデジタルテクノロジーを使って価値を創造する必要はないからだ。問題は「尊厳格差」だ。政府が施しを与えればいいというものではない。低所得の人々は、人間としての尊厳を求めている。彼らが尊厳を感じるには大胆な社会変革が必要だ。大学に行かないと報われないような社会はおかしい。職人技は実地で学べる。階級社会にしようと言っているわけではない。どの職業の人にも尊厳をもって接する社会を提案しているのだ。
──18年のTEDトークで、「人間をテクノロジーで最適化するのではなく、人間の未来のためにテクノロジーを最適化すべきだ」と話していますね。
例えばテック開発者なら、ユーザーを「モノ」と考えてはいけない。ユーザーがテクノロジーに使われていると感じるようなら、開発の仕方が間違っている。人間の創造性を解き放ち、予期せぬ結果を生むようなテクノロジーをつくるにはどうすればいいか。そう考えるのが正しいやり方だ。
──デジタル時代には、なぜ「人間であること」が大きな価値となるのでしょうか。
テクノロジストが、人間を時代遅れな存在だと考えているからだ。人間であることの価値を取り戻せなかったら、私たちは滅びてしまう。(環境破壊など)人が悪いことをしてきたのは確かだが、私たちには、機械や動物にはできないことができる。
デジタル化で失われたものは人的価値だ。私たちは人間をコンピュータとみなし、プログラミングできるかのように考え、人間の魂を尊重しなくなってしまった。未来に向けて大切にすべき価値とは、地球上の植物や生物を大切にし、心を通わせることだ。
──チーム・ヒューマンと反ヒューマンの攻防は?
目下のところ、反ヒューマン勢は「チーム・キャピタリズム(資本主義チーム)」だ。資本主義は人間を、市場が成長するための「リソース(資源)」とみなす。米企業の人事部が「ヒューマン・リソーシズ」と呼ばれるゆえんだ。人間を根本的・精神的価値ではなく、「利用価値」という物差しで測る。
その結果、人間は会社の奴隷、社畜と化し、他者のために、(市民が最下層に位置する)金融ピラミッドつくりをさせられる。それが資本主義だ。
2019年1月発売の『Team Human(チーム・ヒューマン)』。人間が存続する権利を守るために執筆を決意。インターネットやテレビなどのメディアと世界との関係を論じている。日本版『人間のチームとして──企業でもなく 国家でもなく』(ボイジャー)は今春発売予定。
ダグラス・ラシュコフ◎作家、メディア理論家、クイーンズカレッジ(CUNY)教授。ニューヨーク在住。著作に『サイベリア──デジタル・アンダーグラウンドの現在形』(アスキー)、『Team Human(チーム・ヒューマン)』など多数。