──最後に安全保障とテクノロジーのあり方についてお伺いします。私はテクノロジーで戦争や貧困の原因を除去できる可能性は高いと思います。主に軍事技術のために発達してきたテクノロジーを、人類の貧困・紛争をなくし社会課題解決のために活かしていく。これを私は「ピーステック」と呼んでいます。コロナ禍の中、国際協調と科学による感染症との戦いもピーステックの一環だと考えています。安全保障の専門家である石破さんの考えはいかがでしょう?
バランス・オブ・パワーが崩れたときに戦争は起こるものです。そして、不測の事態から戦争が起きる。オーストリア=ハンガリーの皇太子暗殺事件が、第一次世界大戦につながると予測できた人は、ほとんどいないでしょう。どのようにして戦争が起こったか、どうすればそれを防げるか、を人類史から分析するためには、AIが向いているでしょう。
例えば今、中国とアメリカの対立が激化していますが、私たち日本は中国という国の現状をもっと分析する必要があります。政治と軍事と産業が一体となって動いているというのも、アメリカより中国の方が顕著です。中国の軍拡も構造的なものだと思っていて、そこを理解しながら中国の陸海空宇宙のテクノロジーについて分析をする必要があります。感情的な議論に流されず、その国の現状とその背景や理由について理解すること、そして政治家同士、あるいは制服組同士の意識の共有を密にすることが、とても大事なことなのです。
現在、世界の情報の99%は公開情報だと言われています。それは様々な本や、論文や、メディアであって、その気になればいつでもアクセスできる。誰かに会う時に何の知見もなく会ってもあまり意味がありません。事前に調べて、その人は一体何を考え、何を発言し、その背景は何かを知ることによって、疑心暗鬼を取り除くことができるのです。
──テクノロジーもうまく活用しながら、膨大な公開情報から分析・検証していくことが、コミュニケーションの深化という意味で、大事だということでしょうか。
「ヒューミント」と呼ばれる人的な情報収集活動が残りの1%になるでしょうが、この部分の努力を日本はほとんどしていないのです。日本では、情報を得るためにお金を渡すとか、偽情報を流すといった行為は認められていません。この議論の結論は簡単に出ませんが、99%の公開情報にアクセスする努力は不可欠だと考えます。
──相互理解により払拭できる誤解やミスコミュニケーションが相当あると。そこにテクノロジーをからめた平和を求める努力は、まだまだ日本は足りないのでしょう。
世界中の人々の心が「アルプスの少女ハイジ」のように清らかになる日が来ればいいでしょうが、私が生きている間は無理でしょうね。