3つ目は、抽象論ではなく数字をベースとしたファクトで語ること。決算財務情報を正しく伝えるのは当然で、さらにそこには出ていない情報もしっかり開示していくことが必要です。
4つ目はリスクの明示です。海外投資家は日本と距離があるので、情報の伝わり方がどうしても断片的になってしまう。当社は全体で138のリスクを一覧で示し、その中で重要視するリスクを伝えています。また、投資家たちとの対話を続けるうちに、リスクだけではなく、リターンの側面もとらえ、伝えることを意識するようにもなりました。例えば、リスクと思われる消費増税ですが、その原資は教育無償化に使われる。すると消費者の可処分所得は上がる、というようにです。ひとつの現象を多面的に言及すると、格段に投資家たちの理解が高まります。
──海外投資家の方は日本企業に「ワンメッセージ」「シンプルなメッセージを」という。
重点的に取り組んでいる課題や戦略のポイント、それがどこまで進捗しているかを明確に伝えることが重要だと考えています。あとは、日本とのコンディションの違いを、正しく伝えきること。例えば、日本独特の商慣習、業界や法的な事情をしっかりと説明する。そういう細かなところまで気をつけて話すことが大切だと思います。
いかに戦略に落とし込むか
──ご自身にとって、海外IRはどのような場ですか。
日本、または私たちの常識は世界の常識なのか答え合わせをする場。大切な気づきを与えてくれる、経営者にとってはなくてはならない場所です。
以前、「施策にエッジが効いていない。10年先までもたないのでは?」とはっきり言われました。そこで、「消費環境が激変するなか、購買の定義を見直しなさい」という彼らの指摘をもとに、5カ年計画を立て、「くらしの『あたらしい幸せ』を発明する。」という新しいグループビジョンを策定しました。
今回のロードショーでも、GINZA SIXの新規出店や、渋谷パルコ、大丸心斎橋店本館の建て替えに関して、海外投資家からは数字が目標に対して未達だったことや成長率がまだ足りない点に指摘を受けました。まさに現状と、あるべき姿のギャップです。そのギャップを埋めるための施策が戦略やビジネスモデルにつながるわけで、必ず経営戦略に反映するようにしています。
海外投資家はズバズバと指摘をしてくれます。それを素直に受け入れ、どこまで応えられるか。これを積み重ねていけば、海外投資家もきちんと評価してくれますし、結果、業績にも反映するのです。
山本良一◎J.フロント リテイリング取締役兼代表執行役社長(取材当時)。1951年生まれ。73年、明治大学商学部を卒業後、大丸(現大丸松坂屋百貨店)に入社。2003年、社長に就任。07年、大丸と松坂屋HDの経営統合により発足したJ.フロント リテイリングの取締役に。10年、大丸松坂屋百貨店社長。13年4月より現職。