キャリア・教育

2020.05.14 19:00

メディアアーティストの「才能の芽を詰まない」育成思考 #新しい師弟関係

バイオアートの第一人者として知られる福原志保(左)と、スペキュラティブ・ファッションデザイナーの川崎和也

新型コロナウイルスの影響で、人との物理的な距離感、コミュニケーションの仕方が変わるなか、「いかに人間関係を育むか」はこの先の大きな論点のひとつだろう。 4月25日発売のフォーブス ジャパン6月号では「新しい師弟関係」に焦点を当て、全55組の師弟を紹介。ここでは、誌面に載せきれなかったエピソードをお届けする(本編の一部はこちらから)。


ファッションに関わる倫理的な問題を提起する作品を数多く発表してきた、スペキュラティブ・ファッションデザイナーの川崎和也。

2019年、川崎率いる研究チーム「Synflux」は、人工知能を使い生地を無駄なく裁断するパターンメイキングのシステム「アルゴリズミック・クチュール」を開発。H&Mファウンデーションが主催する「第4回グローバル・チェンジ・アワード」では特別賞を受賞。ファッション界のノーベル賞ともいわれるアワードで、日本チーム初の快挙となった。

最新技術の研究・社会実装を行い、課題解決に挑む。そんな若きデザイナーが師と仰ぐのは、日本のバイオアートの第一人者であり、グーグルの先端技術研究部門「Advanced Technology and Projects(ATAP)」で研究開発を行う福原志保だ。

バックグラウンドも所属も異なるふたりだが、世代や専門分野を超えた「好奇心」に共鳴し、互いに高め合っている。

真の意味でリベラルで、壁がない


福原:私が学生の時の先生は、いわゆる「手伝い」をさせる人ではなく、体験する環境を整えてくれる人でした。そのときの経験から、私自身、自らが学ぶ姿勢が身に染み込んだのかもしれません。

私も10年間ほど、いろいろなアーティストのアシスタントをしていた時期があります。この業界にアシスタントになる制度なんてないので、アートフェスティバルに行き「手伝わせて下さい」と飛び込んで、そのフェス中に手伝いをしながら名前を覚えてもらっての繰り返し。覚えてもらった人から「次回も手伝ってほしい」と連絡がきたら手伝いをして、まるでフリーランスのアシスタントみたいなことをしていました。

やり方なんて誰も教えてくれないから、実践で学ぶしかなかったんです。しかも、みんなひとりで何でもできてしまう人たちばかりだったので、アシスタントから一流のアーティストになるために育てられるというよりは、一緒に製作しながらお互い学んでいく感覚でした。

川崎:志保さんは制作をするとき、その分野についてとにかく人一倍、勉強するんです。「アーティストだから芸術表現だけやります」というスタンスでもいいかもしれないのに、例えば大学の生物工学の研究室にまで足を運んで、そこで働く科学者たちに質問をしまくる。ネット上の情報だけでなく、人や場所を大事にするし、論文や本も読みまくるんです。科学誌『ネイチャー』に掲載される最新の論文も、日本語で出る前に原文で読み込んでいる。 

福原:オタク気質なんですよ。特に私がメディアアートを始めたころは、世界中にメディアアーティストは50人しかいないと言われていたくらい、先人が少ない分野でした。だから自然と、自ら能動的に学ぶ姿勢は身についたのかもしれませんね。

川崎:志保さんの方法論をみていると、研究者を連想するときがあるんです。僕は美大をよく知らないということもあったし、アーティストというと、絵画を描いたり、彫刻を彫ったりする人だと勘違いしていたこともありました。けれど、志保さんがつくっていた、亡くなった方のDNAを樹木に保存するバイオアートの作品『Biopresence』を見たときに、自分の固定概念が破壊され「死とは何か、生命とは何か、のような巨大な問いを探求するのがアーティストなんだ」と気付かされたんです。

福原:アーティストにもいろいろな人がいるから「こういう人もアーティストだよね」とは言ったことがあるかもしれない。ただ、私は「アーティストはこうである」といった定義を持っていません。そもそも、私が川崎くんに何かを「強制」する理由がない。細い枝を折ってしまうようなもので、才能の芽を摘んでしまうかもしれないから。彼のほうが私より外向的だから、たくさんの人に会うし、ひとりの仲間として教えてもらっていることも多いんですよ。

川崎:真の意味でリベラルで、壁がないんですよね。何かをつくりたい気持ちから始まり、良い結果を出すためにオープンなチームをつくりながら制作をする姿勢が、志保さんにはいつもあると思います。 最近、僕の後輩が志保さんと知り合って、刺激を受けているのがとても嬉しいんです。アーティストとしての矜持を受け継ぐ連鎖を見ているようで。

福原:私は文化庁メディア芸術祭の審査委員を何度かやらせてもらっているのですが、審査活動は、川崎くんのような面白い人たちの種が芽吹いて、育っていくための土台をつくる「土起こし」のひとつだと思ってやっています。 この審査は約2000人の作品のレビューをしなければいけないので、結構大変な仕事。でも出品者たちは、ここで賞を獲ると人生が変わるわけです。何を選ぶかはすごく責任が重いことですが、なぜやるかと言ったら、日本文化や後続アーティストたちへの想いがあるからですね。

──対談の本編は、発売中のフォーブス ジャパン2020年6月号でお読みいいただけます。6月号ではそのほか、マネーフォワードCEO辻庸介、マクアケ代表取締役社長の中山亮太郎、作家の辻仁成から政治家野田聖子まで、全55組の師弟関係を一挙公開! 縦でもない、横でもない、新しい師弟関係のかたちとは。ご購入はこちらから。



川崎和也◎1991年生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科エクスデザインプログラム修士課程修了。2019年、これまで活動してきたスペキュラティヴファッションデザインラボ「Synflux」を結成。

福原志保◎2001年ロンドンのセントラル・セント・マーチンズ卒業、03年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修了。研究者、アーティストとして活動する一方、Googleの先端技術研究部門「ATAP」に参加。

文=石原龍太郎 写真=平岩 亨

この記事は 「Forbes JAPAN 1月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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