ビジネス

2020.04.06 07:00

シリーズ 「すごい会議」 アイリスオーヤマ/即断即決「革命の月曜日」

プレゼンの様子。1人で部門責任者たちに挑む副事業部長の星。姿はなんとも頼もしい

プレゼンの様子。1人で部門責任者たちに挑む副事業部長の星。姿はなんとも頼もしい

会議はその規模にかかわらず、企業の行く末を決める、とっかかりだ。どのレイヤーでも、どんな内容でも、それは物事が動く起点となる。

世の中には、面白い会議があるものだ。そういう企業は、得てしてビジネス自体も面白い場合が多い。どれだけ機械化が進んでも、人と人との真剣勝負の場が無ければ、成長はあり得ないのだ。

興味深い会議へ潜入する企画「すごい会議」。今回は、高品質で値頃感のある生活用品を提供し、昨今は“なるほど家電”というキャッチフレーズとともにライフスタイル家電で勢いを増す、アイリスオーヤマだ。

毎週月曜、通称「プレゼン会議」は平易なネーミングをまとった真剣勝負の場


毎週月曜、まる1日をかけて行われるプレゼン会議。それは、事業全方位の内容を扱い、各案件10分のみ、代表者ひとり、即断即決で提案の可否が決まるという高回転かつ超がつく濃密な会議だ。

「さあ、はじめよう」

アイリスオーヤマ代表取締役社長、大山晃弘が切り出す。朝から始まるいくつものプレゼンが行われ、一度、10分の休憩をはさんだのみで熱気が会議室にこもる。昼の12時半をまわるころ、取材が許されたのは家電事業本部による新製品の提案だ。若き担当部長の星が、総勢30名超の部門責任者の前に話をはじめる。その中には創業者大山会長の姿もある。

星は堂々と彼らに挑んだ。

「本日の提案ですが、消費者の方々に支持をいただいている〈音声操作家電〉の領域で、この夏をめどに新製品を登場させたいと思っています。LUCA(アイリスオーヤマ初の大型液晶TV)や、シーリングライトで音声操作市場が拡大し、ここに──」

詳しく記せないが、今や同社の特色となった音声操作家電の拡充を提案するものだ。階段教室造りの部屋(冒頭写真)の中央にはモック(サンプル製品)が置かれ、そのかたわらで熱弁を振るう。

彼女一人きりで首脳陣に対していると思いきや、実は、発表者側には「布陣」がある。大阪を拠点とする家電開発部がテレカンで待機し、商品の心臓部の質問に備え、彼女の上司である事業部長は部門責任者側にいながらパワポの操作や補足などスタッフ化してフォローする。今日の現場に至るまで関係者全員が案件にたずさわっているため、〈確認します〉とか〈素材調達聞いてみます〉といった無駄がない。伴走方式という同社の伝統だ。プレゼンでこれからの事業部の柱のひとつが決まるため、この連携は同社の基本だという。

ひと通り聞いた大山社長が、切り出した。

プレゼンを聞く大山社長
厳しい視線と鋭い指摘を繰り出す大山晃弘(写真中央)

「うむ。どうかな、価格が問題だよね。その価格で買っていただけるかね。私は高いと思うな。それって“ユーザーイン”じゃないよね」

後述するがユーザーインは同社の全員が共有する最重要キーワードだ。そして星は社長の言葉に受けて立つ。

「価格、はい、関係部門との連携で出した…〈極秘情報のため中略〉…ものですが今までの価格と、音声技術の進化のバランスを取って〈中略〉…逆算して、すぐに一段下げた価格で再計算してみます」

大山はすぐに答えを出す。

「うん、基本的にはOK。そして価格の件は攻めていこう」

大山にとって攻めとは社員によるアグレッシブな試みのことを言う。価格は利益の源泉であり安くすればいいというものではない。しかし機能が進化した分を売価に反映させると消費者のハードルは上がる。見直しを行うことで逃していた余白が見つかるかもしれない。その試みを社員に促し、「攻め」と言ったのだ。

このケースは価格の面で一部持ち越しとなったが、基本的には「この場」でGOか否かの答えを出す。

 

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文=坂元耕二 写真=今 祥雄

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