では、シリコンバレーが採ったShelter@Homeという対策には、どのような効果が見込めるのだろうか?
新型コロナウイルスについてわかっている事実の1つが、繁殖率2.5という値である。要するに1人の感染者から平均2.5人が感染する。データサイエンティストの試算によれば、何も積極的な手立てを講じない場合、感染者1人が5日間で2.5人に感染させると仮定すると、1カ月で244人が新たに感染することになる。
しかし、感染者を隔離して繁殖率を1.25まで下げることができれば、この感染者からの新たな感染者は1カ月4人程度にとどめることができるというのだ。仮に、最終的な感染者総数は変わらないとしても、繁殖率を下げることができ、その結果、感染者の急増を防止することができれば、詰めかける患者で医療機関が機能不全を起こすような事態は回避することができる。
つまり隔離政策には、確実な効果が見込めるのである。ワクチンが完成していない現在の段階では、これが確実な効果が見込める唯一の方法と言えるかもしれない。シリコンバレーを始め、米国各地でとられているShlter@Homeの背景にある考え方は、これなのである。
スタンフォード大学のRobert Siegel教授(微生物学、免疫学)は、地元紙のインタビューに答えて「人類にとって前代未聞の経験。66歳になる私にも経験のない事態」と前置きし、「今後の展開は誰にも予想がつかなくて当然だ。しかし、人と人の間に距離を置くことには確実な感染予防効果があることがわかっている。だからShelter@Home実施には全面的に賛成だ。今後は世界各国とも、もっと厳しい措置に移行することになるだろう」とシリコンバレーの6カウンティの行動を支持している。
刻々と状況は変化する
さて、この記事を書いている19日は、待機命令発動の3日目。シリコンバレーは幹線道路も街もガラガラ、オフィスの駐車場も空っぽ。たとえは悪いが、2007年〜08年のサブプライム不況以来見たことのない異様な光景である。しかし、いまのところ街も人も落ち着いており、これといった混乱は見られない。
しかし、政策展開を含めてあらゆる動きがきわめて速い。本日19日の新たな動きを書き足しておこう。
1. 19日午後、ロサンジェルス・カウンティが、全住民に対し、シリコンバレーとまったく同じ行政命令すなわち「原則として外出禁止・自宅待機」を出した。法的拘束力のある命令で、期間はシリコンバレーよりも長く、4月19日までである。
2. ロサンジェルス・カウンティの会見直後、カリフォルニア州知事が会見し、カリフォルニア州全域約4000万人の州民全員に対し、シリコンバレーと同様の「原則として外出禁止・自宅待機」の行政命令を出した。知事は「はっきりした見通しが立っていない現在、正直に期間終了の見通しは立っていないというべきだと判断した」と述べ、会見終了と同時に、敢えて命令解除の予定日を定めないまま、無期限の自宅待機命令を発動させた。これにより、全カリフォルニア州民が当面無期限の「在宅シェルター」に入った。
3. 「Shelter@Home」という用語は行政的には使われなくなり、「Shelter in Place」という、より「政治的に正しい」用語に置き換えられている。家庭あるいは家を持たない人もおり、また、家庭以外のところに待機せざるを得ない人もいることへの政治的、行政的配慮である。市民の会話では依然として「Shelter@Home」の方が一般的であるが。
4. 医療機関はウイルス・テストを実施している。例えば、病院チェーン大手のカイザー・パーマネンテは、全施設で、医師から検査指示のあった患者に実施。興味深いのは、検査がドライブスルーで実施されていることで、患者は車に乗ったまま、防具に身を包んだ医療職からテストを受ける。ドライブスルーは待ち時間・テスト時間の短縮と感染防止のためだが、韓国で15000人に実施された例を参考にしたと言われている。
5. グルメ・スーパー大手の「Whole Foods」が、米国内の全ショップで3月18日から開店時間を1時間繰り上げ、その1時間を「ハイリスクで外出自粛」を要請されているグループ(慢性疾患患者、妊婦、65歳以上高齢者)専用時間枠に指定した。
それと同時に、閉店を2時間早めて、店内の徹底的な掃除と陳列棚への商品補填にあてる。類似の対応が全国チェーンのスーパー「Safe Way」でも、量販店の「Target」でも、また各地のローカル・ショップでも実施され始めた。ちなみに食料品の買い出しは必要不可欠な外出(essential travel)として高齢者にも認められている。
前代未聞、人類史上初の事態。どうなって行くのか、経緯や結果をじっくりと見守っていきたい。