ビジネス

2020.03.17 08:00

シリコンバレーにも新型コロナ。危機をアドバンテージに変えたスタートアップの機転

SFIO CRACHO / Shutterstock.com

新型コロナウイルスの影響は、ここシリコンバレーでもかなり顕著になってきた。朝夕のフリーウェイの通勤渋滞はここ数年でかなり悪化していたのだが、いまは肌感で車の数は半分くらいになってしまったのかと思うくらいガラガラだ。

スーパーの棚からはトイレットペーパーや食料品などが無くなるなど、これまで見たことがない風景も目にするようになった。

著名なベンチャーキャピタルであるセコイアキャピタルは、投資先のスタートアップ向けに来たるべき困難な状況に備えるよう異例のメモを送った。これは2008年の金融危機以来のことだ。

今後、これがどこまで世界経済に影響を与えるのか、なかなか先が読めない状況ではあるが、さまざまな業界で、ビジネスが困難に直面することは避けられないだろう。こうした状況では、剰余資金がほとんどないスタートアップよりも、潤沢にある大企業のほうが困難を乗り越えることが容易であると思われるかもしれないが、必ずしもそうとは限らない。

シリアルを売って借金を返したエアビーアンドビー


今回のような危機に直面した過去から紐解いてみよう。今年、IPOが噂されているエアビーアンドビーの創業は2007年、まさにサブプライムローンの危機を嚆矢として金融危機に突入しようとしているときだった。資金調達は困難を極め、借金に苦しんでいた創業者たちは、大統領選挙の党大会の参加者向けにシリアルを売るというアイデアを思いついた。

そこらじゅうのスーパーマーケットでいちばん安い4ドルのシリアルを買い漁り、それを当時大統領選挙の候補者だった民主党のバラク・オバマと共和党のジョン・マケインのデザインをあしらったパッケージに詰め替え、さらにシリアル番号を振ることでプレミアム感を出し、それを40ドルで販売したのだ。結果、オバマのシリアルは3日間で完売、マケインのほうは売れ残ったのだが、計3万ドルを売り上げ、借金を完済した。

とはいえ、本業はあいかわらず泣かず飛ばず。売れ残ったシリアルで食いつなぎながら、2008年末に、藁をも掴む思いで応募したYコンビネーターの面接では、創業者のポール・グレアムに「本当にそんなこと(見ず知らずの人の部屋のベッドを借りて泊まる)をする人がいるのか? おかしいんじゃないか?」とまで言われた。

だが、彼らが4ドルのシリアルを40ドルにして売ることができたというそのクリエイティビティと、ゴキブリのような生命力を評価されて、アクセラレータに採択され、2万ドルの出資を受けることなる。いまや時価総額4兆円とも言われる企業にまで成長したその軌跡は、シリコンバレーのスタートアップのロールモデルの1つでもある。

スタートアップの強みというのは、こうした困難な状況にあってこそ発揮される。

ビジネスが置かれている環境に合わせて機転を利かせ、困難な状況をも逆手にとってアドバンテージにしてしまうようなクリエイティビティ。常にリソースと資金が足りない状況であるからこそ、重要なことだけにフォーカスし、無駄なことを一切せずに突き進んでいく集中力。常に死と隣り合わせな状況であるからこそ生まれるスピード感。それらを持ち合わせているがゆえに、資金やリソースが豊富な大企業のビジネスを脅かすような存在となり得るのだ。
次ページ > 仕事を見直す機会

文=村瀬 功

タグ:

連載

新型コロナウイルス特集

ForbesBrandVoice

人気記事