ロボットは人間の仕事を奪うのか? 米ウォルマートの事例

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ロボットの導入が進むことにより、人間の雇用が奪われるという議論が以前から起こっている。その一例にあげられるのが、米ウォルマートが導入した店舗内を自律走行し、棚の商品をチェックするロボットだ。

ウォルマートは店内を走行するスキャナーロボットの台数を、350台から1000台まで伸ばそうとしていると報じられた。ブルームバーグはマッキンゼーのデータを引用し、人間のタスクの半分が、将来的にロボットに置き換えられると報道した。

ウォルマートは2016年からロボットスキャナーの導入を開始したという。それでは、一体どれほどのスタッフが仕事を失ったのだろう。筆者はウォルマートのコミュニケーション部門のRagan Dickensにこの質問をぶつけてみた。

すると彼は、「誰かが仕事をロボットに仕事を奪われたというような話は聞いたことがない」と回答した。

ウォルマートが導入したのは、ピッツバーグ本拠のスタートアップ企業、Bossa Nova Roboticsが開発した、「Auto-S」と呼ばれるシェルフスキャナー・ロボットだ。このデバイスは店内で、買い物客を邪魔しないようにしつつ自律走行し、棚の商品をチェックしている。

Auto-Sは商品の価格表示や配置の間違いや、欠品をチェックし、人間の従業員に通知を発信する。従業員は携帯端末でメッセージを受け取り、適切な対応を行う仕組みとなっている。Auto-Sは人間であれば数時間を要する作業を迅速にこなし、ミスを犯すこともない。

ウォルマートによると、店舗で働く人間の仕事は、タスクと呼ばれる種類のものではなく、顧客らと密接なコミュニケーションをとることだという。顧客にアドバイスを与え、探している商品の場所を教え、快適なエクスペリエンスをもたらすことが、人間の仕事なのだ。

ロボットは人間にとってはつまらない反復作業を引き受け、迅速にそれをこなす。従業員はロボットに任せたことで浮いた時間を、顧客とのコミュニケーションに注げるのだ。

小売業界においてカスタマーサービスの向上は、ロイヤルな顧客を引き止めるために最も重要な役割を果たす。ウォルマートは自動化ツールの導入で、顧客体験と効率性を同時に高めることができる。

ロボット化は職場を前向きに変える


そこから得られるメリットは、従業員によりフレキシブルな対応を可能にし、刻一刻と変化する顧客のニーズに応じた対応を可能にする。現場で働く人々は、顧客のニーズに向き合い、人々を助けることでより深い満足感が得られる。退屈な反復作業からは得られない心の充実感が得られるのだ。

さらに、小売ビジネスを俯瞰する視点から眺めることで、個々の従業員はこの業界の未来を見据えるアイデアを得て、後のキャリア形成にもつなげられる。ロボットに任せるべき仕事から解放されることで、彼らは未来に進んでいける。

オートメーション化が人間の雇用を奪うことは、実際に起こり得るだろう。しかし、ウォルマートのアプローチからは、必ずしもネガティブな事態にはつながらないことが見えてくる。ロボットの導入により、企業やそこで働く人々、そして顧客たちの全てがベネフィットを得られる未来も、決して実現不可能ではないのだ。

編集=上田裕資

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