ライフスタイル

2019.12.21 17:00

移住者が殺到する「東南アジアのポートランド」。若者は何にひきつけられるのか

日没時のバンドンの街並み(Getty Images)


バンドンの魅力は「物価」「気候」「文化」にあり
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なぜフリーランサーが増えたのか。先ほど登場したカフェを経営する男性は、筆者の取材に対し「物価」「気候」「文化」の3つを挙げた。

バンドンは首都ジャカルタと比較して物価が低い。筆者の感覚だと、宿泊費や食費、コーヒー代などはジャカルタの2分の1〜3分の2程度だ。生活コストは比較的低く抑えられる。


コーヒーだけでなく、カフェラテやエスプレッソもバンドンの若者らは好んで飲む
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山々に囲まれたバンドンの気候は、いい意味で東南アジアらしくない。日中は多少の暑さを感じるが、朝晩は少し肌寒い日もあるほど。かつて「ジャワのパリ」と呼ばれ、植民地時代にオランダ人比率が高かったことからもその過ごしやすさがうかがえる。

バンドン
山々に囲まれたバンドンは涼しく、空気も比較的澄んでいる

文化。これがフリーランサーをひきつける最大の要因ではないかと、男性は語る。バンドンほどさまざまな顔を持つ都市を、筆者はほかに知らない。

インディペンデントなアパレルブランドが多数存在するバンドンは、まさに「ファッションの街」。ふらりと入ったアパレルショップで手にしたバッグには、「中国製ではない。インドネシア製です」というタグが縫い付けられていた。Tシャツ、ジャケット、デニムパンツ、革靴、バッグ。実際に手にとって見るとその品質の高さ、職人の仕事の丁寧さに驚かされる。


バンドンには独立系のアパレルブランドが多い

アンダーグラウンドミュージックやクラブミュージックの人気も高い。週末は夜遅くまでダンスクラブが賑わう。ストリートカルチャーもしっかりと根付いている。スケートボードショップにはカラフルなボードが並び、街角でスケートボードを抱えた若者の姿をよく見る。

学術都市としても名をはせるバンドン 。国立の名門大学をはじめ高等教育機関が市内に多数立地する。その影響か人口に占める若者の比率が極めて高い。カルチャーミックス。さまざまな文化が交じり合い、新たなアイデアが生まれていく。歴史を振り返ってみると、若者が集まる勢いのある都市は、ほぼ例外なくカルチャーミックスが起きている。

「おしゃべり」がクリエイティビティの源泉

夕暮れ時、バイクタクシーでバンドンの目抜き通りを走っていたら「クリエイティブ・シティ」と記された立体看板が目に入った。5年前の記憶が呼び起こされる。当時、筆者は米国オレゴン州ポートランドにおいて、築130年の古民家を借りて滞在していた。コーヒー、スケート、クリエイター、インディペンデントなブランド、全米中から押し寄せる移住者。その土地は世間でこう呼ばれていた。クリエテイティブ・シティ、と。


バンドンにはポートランド同様、ロースターも多い。西ジャワやバリなどローカルの豆を楽しむことができる

車のクラクションの音で、意識がバンドンの雑踏に引き戻された。そうだ、ここはポートランドではなく東南アジアのバンドンだ。

筆者を乗せたバイクタクシーは、バンドン中心部の奥まった場所にある新しいカフェに向かった。すっかりと日は暮れている。現地の友人らと落ち合い、再会を祝す。コーヒー片手に、もはや恒例となっている「おしゃべり」に興じた。注目のアパレルブランド、最近よく聴いている音楽、人気のカフェ、旅行、仕事…。気づけば何時間も経過していた。


市中心部に新しくできたカフェ。「おしゃべり」に興じる若者らで夜遅くまで賑わう

「バンドンのクリエイターたちはカフェで毎日おしゃべりの時間を設けるんだ。そしておしゃべりの中から創作のアイデアを得る。バンドンの素晴らしい景色と空気、雰囲気、そしておしゃべりの文化。これらがフリーランサーを引きつけるんだろうね」


ポートランドのアイスクリーム店。バンドンとポートランドの共通点は驚くほど多い=2014年撮影

昼間に話を聞いたカフェ経営の男性の話を思い出した。そういえばポートランドでも、クリエイターやフリーランサーたちが朝早くからカフェで「おしゃべり」をしていた。

「物価」「気候」「文化」。日本の地方にも、これらを兼ね備えた都市はいくつもあるはずだ。それらが果たして、どれほど活用しきれているのだろうか。また、どれだけ若者が集まっているのだろうか。バンドンでなにか大いなる宿題をもらったような気がした。

連載:世界を歩いて見つけたマーケティングのヒント
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文、文中写真=田中森士

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