内燃機関で走る自動車が発明されてから約1世紀半。その間、エンジンは不断の進歩を遂げてきた。しかし、もはやその終焉が近づきつつある気配を、多くの人が感じ取っているのだろう。去りゆく時代に対する郷愁の現れとして、内燃エンジン全盛期を想起させるレトロなデザインのクルマを街で見かけることは珍しくない。
見た目は懐古調のスタイルで、中身は最新のクルマというのは、ひょっとしたらこれから先、電気自動車が一般的になる時代にはさらに増えるかもしれない。だが、特にスポーツカーにおいてルックスと同じくらい(少なくともドライバーにとって)重要な要素であるサウンドは、諦めざるを得なくなる。名曲のカバー・バージョンを作るなら、オール・デジタルで再現するよりも、生楽器の演奏が可能な今のうちにやっておきたい。
現代の新車をベースに往年の名車を再現したアレス・デザインのクルマなら、原曲とそっくりではないものの、同じくらい魅力的なサウンドを聴くことができる。
アレス・デザインは2014年に創立された新しい会社だが、歴史的に多くの名車が生まれたイタリアのモデナにスタジオと工房を持つ"カロッツェリア"だ。イタリア語のカロッツェリアとは、英語で言えばコーチビルダー、すなわち馬車の車体を顧客の注文に合わせて架装していた業者のこと。彼らの多くは20世紀になると自動車のボディ製作やデザインを手掛けるようになる。
イタリアのカロッツェリアに優れた技術とセンスを持つ職人がたくさんいたことは、数々の名車が証明している。そんなカロッツェリアの技術と伝統を受け継ぐ場所で、アレス・デザインは1970年代の「デ・トマソ・パンテーラ」を現代に蘇らせた。
車体のベースはランボルギーニの現行モデル「ウラカン」(上の写真)。2500万円もするスーパーカーのボディを惜しみなく剥ぎ取り、カーボンファイバーで新たなボディに作り替えた。元ネタとなったパンテーラをご存じの人なら、1970年代のイタリアン・スーパーカーが持つ特徴を上手く捉えながら、現代に合わせて絶妙なアレンジが加えられていることに気付くだろう。
中身についても文句のあろうはずがない。アルミにカーボンファイバーを組み合わせたウラカンのシャシーと、そのミドシップに搭載されたV型10気筒エンジンは、ランボルギーニの親会社であるアウディがドイツの工場で生産しているもの。しかもV10エンジンのパワーは、ウラカンの最新仕様よりさらに10馬力引き上げられている。最高速度は325km/h以上。1970年代のパンテーラには望むべくもなかった性能だ。
インテリアはオーナーの好みに合わせてナッパ・レザーやアルカンターラで張り替えられる。クラッチペダルはないからオートマ限定免許で乗れるのも、本物のパンテーラとの大きな違いだ。