はしかが繰り返し流行する日本。必要なのは、ワクチンの予防接種だ

(Trevor Williams / Getty Images)


なぜ、MRワクチンが不足しているのか

ただ、今回の厚労省のやり方には課題も残る。予定通り追加接種が進んでも流行はなくならないだろう。この点については『ロハス・メディカル』2019年春号に掲載された川口恭氏の「国の風疹対策ここに異議あり」が詳しい。

今回の追加接種の問題は、一部の免疫がない人が接種対象から外れてしまうことだ。厚労省が審議会に提出した資料によれば、同省はHI法という計測法で抗体を測定し16倍以上の人を免疫ありと判断するとしている。抗体価の測定では倍率が高いほど免疫力が強い。

ところが、過去の流行時に厚労省が出した通知では16倍では免疫は不十分で、32倍以上で感染を防げるとしている。

もし、風疹感染を防ぐには32倍以上の抗体価が必要だとすれば、3年をかけて追加接種を行い、39-56歳の男性の10%が新たに抗体を保有したとしても、集団免疫は獲得できない。

厚労省の言い分には理解に苦しむところがある。ワクチンの供給不足を指摘されたくないためであろうか。

我が国の風疹ワクチンの生産量は、MRワクチンとして年間に約460万本だ。210万本は小児の定期接種向けなので、成人に利用できるのは250万本だ。

風疹に免疫がない20~40代の男性人口は約2600万人である。さらに、風疹ワクチンを1回しか打っていない同世代の女性人口を加えると、ワクチンを必要とする人口は4300万人となる。小児の定期接種に用いないワクチンを全て追加接種に回しても、接種終了までに18年を要する。厚労省の試算とは違う。どちらの方が説得力があるかは、読者の皆さんがご判断いただきたい。

厚労省はどうすべきだろう。それは海外のメーカーからMRワクチンを緊急輸入することだ。ところが、厚労省はこの方法について検討してこなかった。

MRワクチンは在庫管理が難しい。それは、病原性をなくした生きたウイルスから作るため、有効期限が1年程度と短かいからだ。世界市場を相手にするメガファーマと比較して、国内メーカーの生産力には限界がある。この結果、大流行が起こると、すぐに供給不足に陥る。

MRワクチンは、すでに免疫がある人に接種しても問題は生じない。今回の追加接種で、クリニックで抗体検査を行えば、その費用は4930~6820円を要する。一方、ワクチン接種の費用は9000円程度だ。全員に抗体検査を実施し、抗体陰性の人にだけ接種するのも、最初から希望者全員に接種するのもコストは大差ない。

厚労省がやるべきは十分量のワクチンを確保することだ。国内メーカーの生産能力を考えれば、海外のMRワクチンを特例承認し、緊急輸入するしかない。

麻疹などの感染症が流行をした場合には、「臨時の予防接種」という制度があり、一歳時と就学前という定期接種の枠とは別にワクチンを接種することができる法的な枠組みは既に存在する。先天性風疹症候群が確認されている以上、海外で安全性が検証されているワクチンについては、承認のための治験は省略してもいい。
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文=上昌広

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