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年間を通じて穏やかな天候に恵まれるニュージーランド北島、ホークス・ベイに「シャトー・ワイマラマ」はある。

造り手はニュージーランド人、コンサルタントはフランス人、そしてオーナーは日本人というワインブランド「ワイマラマ」は、どのような土地で作られているのか━。

ワインジャーナリストの柳 忠之が、ニュージーランド、ホークスベイのシャトーを訪れた。


オークランドを経由してホークス・ベイ地方に位置するネイピアに到着すると、天気はあいにくの雨。強い風に煽られた雨飛沫がSUVのフロントガラスを叩いていた。しかし、その雨雲も次第に薄くなり、時折雲の切れ間から太陽が差し込む。ニュージーランドでは夏に当たる1月でも汗が噴き出すほどの暑さではない。

今でこそ白はマールボロのソーヴィニヨン・ブラン、赤はマーティンボローやセントラル・オタゴのピノ・ノワールが有名なニュージーランドワインだが、それらの産地にブドウが植えられたのは70年代や80年代とごく最近。この国で初めて本格的なブドウ栽培の行われた土地はホークス・ベイで、170年近く前の1851年と記録されている。


 シャトーから車で10分ほどの場所にある「テマタピーク」からの眺め。

「シャトー・ワイマラマ」があるのもこのホークス・ベイ。1988年に設立され、それから10年後の98年、現オーナーである佐藤茂氏の父が買い取った。手つかずの自然と高級ワインを生み出すポテンシャルに惚れ込んだからと聞いてはいたものの、見ればまさにそのとおりで周囲は緑一色。のどかな田園風景が広がっている。

ワイマラマとは先住民族マオリの言葉で「水面に映る月の光」を意味する。ワイナリーはトゥキトゥキ川のほとりに位置し、 4.5ヘクタールのブドウ畑をもつ。フランスのブルゴーニュ地方なら一軒の農家の規模として適当な大きさだが、ニューワールドのワイナリーとしては小さい。それもそのはず、マネージングディレクターのチェイス・アークイット氏をはじめとする少数精鋭のスタッフが、すべて手作業でブドウを育てている。機械化で効率よいワイン造りを目指す大規模ワイナリーとは、根本から違うのだ。

栽培されているブドウは、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、カベルネ・フラン、マルベックといったボルドー系品種にシラー。温暖な海洋性気候のおかげで冷涼と思われがちなニュージーランドでも、ボルドー系品種が完熟する。

佐藤オーナーの好みもシャトー・ラトゥールやシャトー・ラフィット・ロスチャイルドなど、カベルネ・ソーヴィニヨンを主体としたボルドーの偉大な赤ワインだから、これは理にかなっている。じつによい土地を手に入れたものだ。


マネージングディレクター チェイス・アークイット氏


連載:ニュージーランドワインの固定概念を覆す最高級クラスのワイン、「WIMARAMA」

98年以降、チェイス氏らはさまざまな改善に取り組んできた。とくにブドウ畑に注がれた努力は涙ぐましいものがある。どんな凄腕の醸造家でも、質の悪いブドウから、「そこそこ」美味しいワインは出来たとしても偉大なワインを造ることはできない。ワインの質を左右する一番の要素は、ブドウ畑なのだ。

「私たちがここに来た時、ブドウの畝と畝の距離は3メートルありました。それを2メートルに狭めました」とチェイス氏は話す。「ブドウの樹は根から水分や養分を吸い上げます。植え付けの密度が高いとブドウの樹同士が競い合い、粒が小さく、凝縮した実をつけるのです」

また、ブドウ品種をそれぞれ、より適した場所に植え替えたという。ワイマラマのブドウ畑はなだらかな斜面になっており、以前は斜面の上にメルロー、下にカベルネ・ソーヴィニヨンが植えられていた。今は斜面の上のほうでカベルネ・ソーヴィニヨンを栽培している。

「斜面の下の方が土壌に含まれる水分が多く、温暖で乾燥した土地を好むカベルネ・ソーヴィニヨンには適しません。ブドウの成熟が遅くなり、冬が始まる5月に収穫した年もありましたね」

1月は、ヴェレゾンと呼ばれる色付きの始まる直前の時期。樹にはまだ色の青い房がなっていた。太陽光線を効率的に浴びられるように、房の周りの葉はきれいに刈り取られている。またよく見ると、地面には切り落とされたブドウの房。グリーンハーヴェスト、いわゆる間引きである。

「収穫数が多すぎると一つあたりのブドウの質を下げてしまいます。ブドウが色付く前に1本の新梢にふた房のみ残して、あとは摘み取ってしまいます」

この作業を昨年のクリスマスからおよそひと月かけて行う。もちろん手作業だ。

ワイマラマでは15年から、フランス人醸造家のルドヴィク・ヴァヌロン氏をコンサルタントに迎えた。ルドヴィク氏はル・パンやシャトー・ヴァランドローなど、ボルドー右岸のシンデレラワインを生み出したカリスマ醸造家、ミシェル・ロラン氏の右腕として活躍した人物。今は独立し、フランス国内はもとより海外でもワイナリーに助言を行っている。元サッカー日本代表監督のフィリップ・トルシエ氏がボルドーのサンテミリオンに所有するソル・ベニというワイナリーも、彼のカスタマーだ。


今回は特別にワイナリーで、バレル・テイスティング(樽で寝かせた新酒の試飲)の機会も設けられた。

ルドヴィク氏も度々訪れるワイン畑は、区画ごとにできるワインの特徴が異なる。たとえばメルローに限っても、3区画に分けてそれぞれ別に醸造する。樽詰めの段階で斜面下部の区画と東部の区画のブドウをブレンド、そこに凝縮感が高く、肉付きが良いワインができる斜面上部の区画のものを合わせる。

カベルネ・ソーヴィニヨンはオーストラリア、南アフリカ、フランスと3種類のクローン(系統)を栽培し、これまた別々に醸造している。オーストラリアは果実味のボリューム感が大きく、フランスは骨格がしっかり。南アフリカは果実味も骨格も中庸なスタイルだ。

しかるべき時にフランスからルドヴィク氏が来て試験的なブレンドを行い、佐藤オーナーやチェイス氏、大岩氏とともに試飲。最終的なブレンド比率を決定するという。

その夜はワイナリーから車で10分の距離にある「マンガパパ・ホテル」に宿泊。ディナーは、グローバル・ブランディング・オフィサーの大岩由紀夫氏がチリ人女性シェフのノルカ・メリャ・ムノスさんと綿密に打ち合わせを行い、ワイマラマのワインに合わせて考案したスペシャルメニューをいただいた。ワインはこれからリリースされる13年ヴィンテージの「Minagiwa」と、それに昨年9月、ニューヨークでお披露目された09年の「SSS」である。


ワイマラマと同じグループが所有する「マンガパパ・ホテル」では、地元の素材をいかした創作料理を楽しむことができる。

13年のMinagiwaはメルロー55%、カベルネ・ソーヴィニヨン24%、カベルネ・フラン12%、シラー9%のブレンド。果実味の集中度が高く、緻密な構成。一方、バックにはきれいな酸味がフレッシュ感を保ち、ワインに緊張感をもたらしている。ニュージーランド産のビーフのタタキに合わせると、肉の柔らかさとワインの滑らかさが一体となって心地よい。

09年のSSSにはジュニパーベリー添えのスモークした鹿の組み合わせ。鹿といっても野生ではないので獣臭さはなく、柔らかな赤身肉の旨味と香ばしい燻香が口の中に広がる。09年のSSSは最上級のカベルネ・ソーヴィニヨンにしかもち得ない均整美があり、果実味、酸味、そしてタンニンがすべて高次元で調和。このワインにはどんな料理であろうとペアリングを成功させる包容力が備わっている。

ルドヴィク氏以前のワインからしてこの出来。彼が手がける15年以降のワイマラマはどうなるかは、これからのお楽しみとしておこう。



それぞれのボトルの購入は以下電話番号、Webサイト、Emailからのみ受付中。

ワイマラマ ジャパン/ 03-6447-2356
Web: https://waimarama-japan.jp/
Email: info@waimarama-japan.jp 


連載「日本人オーナーが目指す世界最高峰のニュージーランドワイン」
#1:公開中|なぜNYだったのか?日本発「幻のワイン」イベントの全貌
#2:公開中|ワインを知り尽くした先に辿り着いた一つのブランド
#3:公開中|初リリースを迎えた、ニュージーランドワインの最高峰 Chateau WAIMARAMA SSS 2009
#4:公開中|佐藤可士和が挑む「ワイマラマ」のブランディング
#5:本記事|「畑がワインの味を決める」ニュージーランドでワインジャーナリストは何を感じたか

Promoted by ワイマラマジャパン 文=柳 忠之 写真=小田 駿一

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