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下鴨茶寮代表取締役社長 小山薫堂、クリエイティブディレクター 佐藤可士和

ニュージーランド北島のホークス・ベイにあるワイナリー「シャトー・ワイマラマ」のブランディングを手がけるクリエイティブディレクターの佐藤可士和と、放送作家、脚本家であり、京都の老舗料亭「下鴨茶寮」代表取締役社長の小山薫堂。

佐藤は、自身のキャリア最大の個展となる「佐藤可士和展」を東京・六本木の国立新美術館で開催中であり、小山は下鴨茶寮が2021年のミシュランで初めて1ッ星を獲得した。

双方共に華やかなワインで祝杯を上げたいタイミングだからこそ、今回のスペシャルコラボレーションが実現。下鴨茶寮で、シャトー・ワイマラマの「Minagiwa」のリミテッド・エディションのペアリングを小山が提案した。



老舗料亭が提案する新しいワインの楽しみ方


佐藤可士和(以下 佐藤):シャトー・ワイマラマは、日本人の佐藤茂さんがオーナーで、醸造のコンサルティングをフランス人のルドウィッグ・ヴァネロンが務める、非常にグローバルなワイナリーです。

ネーミングからエチケットデザインを含めたブランディングを担当する上で、このワインに関わる国々の伝統をリスペクトしたいという思いがありました。

そのような背景もあり、それぞれのワインにMinagiwa(みなぎわ)、Emigao(えみがお)、Kiraraka(きららか)という銘柄をつけました。

今回僕たちがいただいている「Minagiwa」のリミテッド・エディションは、果実味が深くフルボディでしっかりしているのに、切れ味がいい。伝統を重んじながらも現代的でもある「下鴨茶寮」の料理にも合うと思っていました。

小山薫堂(以下 小山):そもそも和食と赤ワインを合わせることが珍しいし、最初に今回の話を聞いた時、実は「下鴨茶寮じゃない方がいいのでは」と思ったんです(笑)。


一食目の「椀物/炙り鴨ロース 蓮根餅とセリ」。炙った鴨肉の旨味のパンチと、もっちり優しい味わいの蓮根餅の対比に、ほんのり苦味のあるセリが印象的。

小山:でも、可士和さんがおっしゃるように飲んでみると切れ味がよく、口に広がる優しい味わいもある。和食の一品目からペアリングしても面白いのではと思っていました。

鴨ロースの入ったこの椀物は、特有のコクと風味がしっかり感じられるので、白ワインだとちょっと物足りないかもしれません。鴨と赤ワインの相性は間違いありませんが、それを踏まえた上で、和食には使わないコショウをあえて取り入れ、風味を利かせています。

佐藤:「Minagiwa」のリミテッド・エディションは、革新的でありながらボルドーの伝統的なスタイルも残っているから、同じような工夫を凝らしたこの椀との相性がいいのだと思います。


向附/鮪、山葵、琥珀卵。半熟の卵黄部分を醤油漬けにした琥珀卵の独特の舌触りとコクに、爽やかなあおさとわさびの風味がバランス良し。

小山:向附の琥珀卵は、パリのレストランで出会ったものです。その店の琥珀卵はフレンチのソースに合うようトロリとしていましたが、こちらはねっとりとした食感です。

お造りは普通醤油でいただきますが、醤油漬けした琥珀卵と一緒に食べるとコクが増して、赤ワインとの相性も良いです。

佐藤:赤ワインは魚介類の臭みを出してしまいますが、不思議なことにお造りと合わせてもこれは気になりませんね。料理も、少しずつひねられているのを感じます。

これからのキーワードは「余白」


小山:ところで、ワインをブランディングするのははじめてと聞きましたが、他の仕事と比べるとやはり違いますか。

佐藤:例えば、ユニクロやセブン-イレブンのようなマスブランドなら、何億人もの人を相手にロジカルにマーケティングをしますが、シャトー・ワイマラマのワインはまるきり異なるアプローチで、アートワークのようにやりましょう、とオーナーと話し合いました。

世界中の人に知ってもらいたいけれど、単に多く売れて欲しいという感覚とも少し違う。実際、数に限りがあるので、ロングスパンでじっくり考えて、名前やエチケットのデザインにもすごく時間をかけました。

「Minagiwa」のリミテッド・エディションのエチケットを、縦1050 mm、横750 mmのB全大サイズに引き伸ばしたシルクリーンのポスターを「佐藤可士和展」に展示したのは、一つのアートピースと考えているからです。



小山:自分が作ったものを、理解された上で展覧会などの場に出せるというのは嬉しいでしょう。

佐藤:すごく嬉しいですね。わかってくれる方に良さが届けばいいなと思っています。

でも、ワインに限ったことではありませんが、ブランディングには正解がないので、これからどうしていくべきか考えているところでもあります。

小山:シャトー・ムートン・ロスチャイルドの1993年のエチケットには、裸の少女がプリントされていたんです。

それが幼児虐待だと非難されて、途中から真っ白のエチケットに変更されました。そうすると、コレクターは両方集めたくなるもので、売り上げが倍に伸びたという話があります。



小山:そもそも本当に非難の声はあったのか、ムートンのマーケティングだったのではという説もあります。僕も当時、白いエチケットのムートンを大量に買って、そこに自分で絵を描いてプレゼントにしたこともありました。

要するに、あえてそれで遊ばせておくような、「余白」を残しておく、というような試みは面白いと思います。

佐藤:ぎちぎちに作ってしまうと、そこから先に行ける余地がない。僕も、改善可能な余白、心の余裕は常に持とうと心がけています。

アーティストとのコラボレーションがポテンシャルを広げる



春の八寸/蕗の薹カステラ、飯蛸、こごみ、天豆、雲丹湯葉、うるい、赤貝ぬた。春の山菜と海の幸を織り交ぜた、華やかな八寸。

小山:この赤ワインはすごく強いと感じることもあるし、ブルゴーニュ的な気品と、一歩引いたような雰囲気を感じることもある。

八寸に赤ワインは絶対に合わないと思っていましたが、何にでも合ってしまうカメレオンワインですね。

佐藤:僕は雲丹と湯葉に「Minagiwa」のリミテッド・エディションが合うことに驚いています。海のものの臭みやえぐみを全く感じません。

雲丹と湯葉を食べた後にワインを口に含むと、少し甘い。料理によって、飲んだ後のどこか味わいが変わるのも面白い。

蕗の薹カステラは、フキノトウのふんわり広がる上品な苦味と意外性が楽しいし、この赤ワインとよく合います。


焼き物/鰻白焼柚子と山葵、鰻蒲焼、海老芋から揚げ。鰻をあっさりと柚子香る白焼き、タレが香ばしい蒲焼きで堪能。木の芽の清涼感がアクセント。

佐藤:木の芽や山椒などのグリーン系のスパイスもすごく合うんですね。木の芽の、舌先が少し痺れる感覚の後にワインを飲むと、こちらも甘く感じます。

カリフォルニアワインより、圧倒的に和食に合いますね。これからも様々なジャンルの料理人の方に、シャトー・ワイマラマのワインに合う料理を作ってもらって、和洋中すべての人が「料理に合うね」と言ってくれたら、このワインのポテンシャルを分かりやすく表現することになると思います。

小山:ワインを小さなデカンタに移し、それを氷の入ったクーラーで少し冷やしてから飲むというのはどうでしょう。今回のような和食に限らずコースの最初から赤を提案するというのもかっこいいと思います。

器でいえば、辻村史朗さんという赤ワインしか飲まない陶芸家さんを思い出しました。

彼は、自分で焼いた脚のないワイングラスのようなコロンとした形の器でいつも飲むんです。グラスではなく、土ものの柔らかい口当たりの器で飲むのもまた美味しい。シャトー・ワイマラマのワインも合うと思います。

佐藤:様々な作家の方と、ワインに合う器を作ってもらうコラボレーション企画は面白いですね。今年はこの方の器、次はこの方の器、とそれぞれどのような違いが出るのか楽しみです。

小山:他ではそんな試みはありません。ある程度ゆとりがないと出来ないことだからです。私は、財力のある方の上質な浪費から文化が生まれると思っています。回収を考えず、どう生きた証を残すかどうかです。

佐藤:シャトー・ワイマラマも、ビジネスという枠を越えて、純粋にいいものを作りたいという気持ちで突き詰められるかで結果が変わると思います。

僕がブランディングを手掛けるようになり、今年で6年目になりました。6年経って、「Minagiwa」のリミテッド・エディションのエチケットという形でアートピースを作ったり、今回の小山さんとの企画が形になったりして、ようやく第2フェーズにたどり着いたかなと感じています。

今日の対談でいただいたヒントは、いずれ形にすることができればいいですね。



佐藤可士和◎1965年、東京都生まれ。多摩美術大学卒業後、博報堂へ。2000年にクリエイティブスタジオSAMURAIを設立し、代表を務める。企業のロゴデザインやミュージシャンのアートワーク、大学のブランディングに商業施設の空間デザインなど、ディレクションの対象と表現方法は多岐にわたる。日本を代表するクリエイティブディレクター。

佐藤可士和展
2021年2月3日(水)~5月10日(月)国立新美術館にて開催
※日時指定入場制、上記WEBにて事前に要予約

小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。エッセイ、作詞などの執筆活動のほか、熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わっている。

ワイマラマジャパン/03-6447‐2356
https://waimarama-japan.jp/
info@waimarama-japan.jp

※本記事に登場する料理に興味がある方は、予約時に下鴨茶寮へお問合せを。2021年5月末日まで。


連載「日本人オーナーが目指す世界最高峰のニュージーランドワイン」

#1:公開中|なぜNYだったのか?日本発「幻のワイン」イベントの全貌
#2:公開中|ワインを知り尽くした先に辿り着いた一つのブランド
#3:公開中|初リリースを迎えた、ニュージーランドワインの最高峰 Chateau WAIMARAMA SSS 2009
#4:公開中|佐藤可士和が挑む「ワイマラマ」のブランディング
#5:公開中|「畑がワインの味を決める」ニュージーランドでワインジャーナリストは何を感じたか
#6:公開中|「日本発ワイン×鮨」が仕掛ける、世界の美食家たちへの挑戦
#7:公開中|佐藤可士和が手がける アートとしてのワインエチケット
#8:本記事|小山薫堂が提案 京都の老舗料亭でしか味わえないスペシャルなペアリング

Promoted by ワイマラマ 文=堤 律子 写真=津久井珠美

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