フリーランスインタビューアー/ライター

クリエイティブディレクター 佐藤可士和

「MINAGIWA」「EMIGAO」など日本人にも耳馴染みのいいワインがそろう、ニュージーランド産ワイン「ワイマラマ」。ブランディングを担当した佐藤可士和に、そのネーミングとエチケットの誕生秘話を聞いた。


国立新美術館のシンボルマークデザインに、セブン・イレブンで目にする、プライベートブランドのデザイン。佐藤可士和が手がける仕事は、私たちの暮らしの中に数多く点在する。企業も商品も地域も、すべてをブランドと捉え、それらに社会で特別な存在感を持たせる。自身の仕事はコミュニケーションデザインだと言う通り、

「最終的な表現形態が、WEBかポスターか建物かという違いなだけで、案外何でもできるのではと思っています」と、屈託のない笑顔で語る。
 
そんな佐藤が今回手がけたのが、ニュージーランド産ワイン「ワイマラマ」のブランディングだ。意外なことに、ワイン全体のブランディングを本格的に手がけるのは、今回が初めてのことだと言う。
 
ワイマラマのオーナーで「エイブル&パートナーズ」代表・佐藤茂との親交は、社の新しいロゴとスローガンを刷新するプロジェクトがスタートした2012年から続く。ふたりは同世代ということもあり親しい仲だったが、「佐藤オーナーは、ワインをアートでありカルチャーだと捉えている。味そのものへのこだわりはもちろん、会話やヒストリーを楽しむ時間も含めて、ワインの価値だという。僕自身も同じ思いでした」と、ワイマラマのブランディングを引き受けた際の、共感の気持ちを佐藤は振り返る。
 
ワイマラマのワインは、余韻の残るネーミングにも特徴がある。同社が擁するワインは全5種類。うち4種は「MINAGIWA」「EMIGAO」「KIRARAKA」「CAGIRINA」と、すべてに古語が用いられている。その理由を佐藤に尋ねると「ネーミングだけで、歴史や文化といった背景までも取り込むことができるから」と答えた。



たとえば「MINAGIWA(ミナギワ)」は中国語で「波打ち際」を表す。シャトー・ワイマラマの葡萄畑は目の前にトゥキトゥキ川を見下ろし、ワイマラマと水は切っても切れない関係性にある。水をイメージさせるネーミングに決まってから、エチケットの色やデザインが固まっていった。「ワインは人と人をつなぐメディア」と語る佐藤にとっては、ネーミングひとつをとっても、語られるストーリーがあることが大切なのだ。
 
連載:ニュージーランドワインの固定概念を覆す最高級クラスのワイン、「WIMARAMA」

今年9月にNYのイベントで初お披露目となった最高級ライン「SSS(エスエスエス)」は、これまでのラインとネーミングのニュアンスが少し異なる。



SSSとは、「Sato’S Special」の略称で、佐藤オーナーが厳選した最上級のワインという意味でつけられた名前だ。しかし、エチケットにはSato’S Special とは書かれていないことから、「Specialtyを表すSクラスを相当に上回るから、SSSなのか」「Sは佐藤家のSでは」「SSSのSのひとつは、佐藤可士和のSなのでは」など、ネーミングについての会話が生まれる。どの解釈も間違いではなく、「受け手ごとに解釈が生まれていい」と佐藤は言う。
 
ワインは、単なるお酒の一種ではない。アート、ひいてはカルチャーだとふたりは考える。だからこそ、ネーミングにも様々な伏線を忍ばせて、意味や文脈を多層にしている。単純明快ではなく、複雑で深みがあるからこそその魅力が高まるのだ。
 
それぞれのネーミングに決定するまでのプロセスもユニークだ。「佐藤オーナーとの感覚的なやり取りをして生まれるものがいいのではと思った」という通り、JAMセッションという形式がとられた。仕事とプライベートの垣根を越えたような環境で、時にはワインを片手に、自身の価値観や嗜好性、興味関心など、極めて個人的な対話を重ねた。
 
一方で佐藤は、感覚的要素はほんのわずかで論理的要素が強く求められる、企業ブランディングのようなマスの仕事も数多く手がけてきた。代表作のユニクロのロゴは世界中の誰が見ても一瞬で同じイメージを持てるよう、複雑性を極力排除し明快に表現されたものだ。アウトプットだけでなくプロセスにおいても、膨大な関係者の納得が得られるよう、エビデンスを大切に非常に論理的に進めたという。

そう聞けば一層、ワイマラマのネーミングを考え、エチケットを作る際の、感覚的な要素が強いこの手法を選んだ理由が気になる。すると「ビジネス思考をベースにしたら、アートは生まれない。何より味気ないし、色っぽくないじゃないですか」という答えが返ってきた。つまりは論理と感覚のバランス。目の前にいる相手の想いや対象の本質をつかみ、適切な表現方法で可視化するためのベストを選択しているということなのだろう。ワイマラマのワインは、佐藤オーナーと佐藤可士和、ふたりの対話と感覚から生まれた、アート作品なのだ。

ホークス・ベイの美しい自然が「幻のワイン」を生む



「シャトー・ワイマラマ」はワイナリーが密集する地としてその名を知られるニュージーランドのホークス・ベイに位置する。「ワイマラマ」がニュージーランド先住民マオリ族言葉で「水面に映る月光」を意味するように、葡萄畑の前には雄大なトゥキトゥキ川を見下ろす。川の水面で踊る月光をイメージして、ブランドのロゴは生まれた。また、ワイマラマはホークス・ベイの土壌、水、空気の価値を高め、次世代に引き継いでくことを信念に持つ。2002年からいち早くサステイナブル・ワインの栽培を始めたワイナリーとしても知られる。


佐藤可士和◎1965年、東京都生まれ。多摩美術大学卒業後、博報堂へ。2000年にクリエイティブスタジオSAMURAIを設立し、代表を務める。企業のロゴデザインやミュージシャンのアートワーク、大学のブランディングに商業施設の空間デザインなど、ディレクションの対象と表現方法は多岐にわたる。日本を代表するクリエイティブディレクター。
連載「日本人オーナーが目指す世界最高峰のニュージーランドワイン」
#1:公開中|なぜNYだったのか?日本発「幻のワイン」イベントの全貌
#2:公開中|ワインを知り尽くした先に辿り着いた一つのブランド
#3:公開中|初リリースを迎えた、ニュージーランドワインの最高峰 Chateau WAIMARAMA SSS 2009
#4:本記事|佐藤可士和が挑む「ワイマラマ」のブランディング
#5:公開中|「畑がワインの味を決める」ニュージーランドでワインジャーナリストは何を感じたか
#6:公開中|「日本発ワイン×鮨」が仕掛ける、世界の美食家たちへの挑戦
 
 
 
 

文=伊勢 真穂 写真=小田駿一

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