近年、脳科学が進歩し、「中年になると脳が劣化するというのは間違い」など、脳の解明が急速に進んでいます。
もともと興味があった脳科学をさらに深く考え始めたのは、仕事柄もあったでしょう。私が手掛ける「戦略コンサル」は、企業を将来も永続的に発展させる為の戦略や構想を練る仕事です。しかしながら、流れが早く、様々なテクノロジーが出てきた現代は、未来を見通しづらい時代です。
グーグルの自動運転を梃子にした自動車業界の参入、アマゾンのホールフーズの買収によるリアル店舗への参入など、オンラインの会社がオフラインに展開するといった、思っても見なかった変化が急激におこるのです。
難しい時代であっても、経営者は未来を構想し、大きな決断をしなくてはなりません。だからこそ、我々のような戦略コンサルが、経営のパートナーとして強く求められるのです。
未来を構想する経営者からの問いとは「10年後はどうなっているのか」「それを踏まえて、今、自分たちは何をすればいいのか」であり、「現状の問題点を改善して欲しい」ではありません。残念ながらこの答えは、過去を分析しても、他人や他社のベンチマーク研究をしても出てきません。
戦略コンサルは、これまでとは違う、新たな価値を提案する力を持たなくてはなりません。すなわち違った脳の使い方が求められるのです。
科学の進化は色々な事を教えてくれます。
本書をはじめ、『いくつになっても脳は若返る』(ジーン・コーエン著)など、脳に関連する本には、「年をとると、瞬発的に物を判断する力は衰えてくるが、複雑にモノを考えたりする能力は成長している。自分の脳はまだ成長期だ」ということや、「若い時は、脳の一部しか使っていないが、年を取ると、脳の様々な箇所を使うようになる」ことなどが書かれており、読むことで、自分の可能性を感じることができます。
分析のスピードや正確さで、AIに敵わない時代は、もうすぐそこです。AIも敵わない「脳力」を持つことでクライアントが求める「未来を想像する力」を高められるかもしれないのです。戦略コンサルが将来も付加価値の高い提案をし続ける鍵だと思っています。
「脳力」を上げるためにより論理的に考えてみたり、未来を想像してみたり、アートやエンターテインメントにふれたり、緻密に考えるスポーツをしたりするなど、これまでの生活を少しだけ変えることで、脳に刺激を与え、活性化させることができると思います。まずは、本書から、自分自身の開花できるかもしれない脳力の可能性を感じてみてください。
title : 年をとるほど賢くなる「脳」の習慣
author : バーバラ・ストローチ
data : 日本実業出版社 1650円(税別) 320ページ
ひうら・としひこ◎東京大学教養学部卒業、ハーバード大学経営大学院修士課程(MBA)修了。日本興業銀行を経て、ベイン・アンド・カンパニーに参画。2008〜14年東京オフィス代表、14〜17年会長を務める。18年より現職。編著書に『企業価値4倍のマネジメント』など。