今回の韓国・文在寅大統領の訪朝には、現代自動車、サムスン電子、SK、LGなど、韓国を代表する財閥系企業のお歴々も同行。政治や外交だけでなく、経済やビジネスの変化にも世界の視線が集中した。
韓国企業が狙う北朝鮮市場
そんな南北の本格的な接近を予期してか、韓国では北朝鮮との経済・ビジネス関係を模索する人々が増え始めている。弁護士たちは北朝鮮の法制度を学び直し、メディアでは「北朝鮮に精通した人材を確保するための方法」などがコラムで掲載されたりしている。今年5月頃には、著名政治家のアン・チョルス氏が「北朝鮮ハッカー部隊を『AI人材』としてソウル市で採用する」と本気で語り、話題になった。
個人的な考えだが、今回、北朝鮮を訪問した韓国財閥企業も、北朝鮮とのビジネスに大きな期待を懸けているはずである。欧米や中国の企業と競争を繰り広げているグローバル市場とは異なり、北朝鮮は言葉も文化も同じ“お膝元”だ。いまのうちに交流を重ね、来るべき日には、是が非でも市場を獲得したいと考えているはずである。
昨今の韓国閥系企業を見ていると、人工知能やロボティクス、IoTを始めとする先端テクノロジー分野の研究・投資・商用化にあらゆる力を注ぎこんでいるが、社会インフラが未発達な北朝鮮にはそれらテクノロジーに対する莫大な需要が眠っている。
しかも、既存のインフラがないだけに新たな技術を導入するための障害や既得権益、経済的コストが少ない。加えて、北朝鮮の人々の教育水準は先進国と比べて遜色がなく、人材も豊富だ。
「アルファ碁」以前、北朝鮮の囲碁AIが世界最高峰のレベルだったことは知る人ぞ知る話である。将来的に投資や技術さえ集まってくれば、世界を代表する「テクノロジー実験場」になりうる可能性も秘めているだけに、韓国財閥企業の関心もことさら高まるしかない。
テクノロジーがユートピアを実現?
北朝鮮は、テクノロジーに対してフレンドリーな国であるとの分析もある。今年4月、韓国・尚志大学校のソ・ドンス教授が執筆した「北朝鮮の空想幻想文学とユートピア」という研究書籍が発刊されたが、その中身が非常に興味深い。
同書は、北朝鮮の「空想幻想文学=SF文学」に焦点をあてたもので、1950年代から、人工知能ロボットを取り扱った最近の作品まで、約100冊の北朝鮮SF文学を分析の対象としている。